グローバルキャリア塾 連載コラム

世界に魅せられて (第2回)

第2回:多様性の中で

認定NPO法人Dialogue for People 所属
フォトジャーナリスト/ライター

佐藤 慧

1982年岩手県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト、ライター。同団体の代表。世界を変えるのはシステムではなく人間の精神的な成長であると信じ、紛争、貧困の問題、人間の思想とその可能性を追う。言葉と写真を駆使し、国籍−人種−宗教を超えて、人と人との心の繋がりを探求する。アフリカや中東、東ティモールなどを取材。東日本大震災以降、継続的に被災地の取材も行っている。著書に『しあわせの牛乳』(ポプラ社)、同書で第二回児童文芸ノンフィクション文学賞など受賞。東京都在住。

◆WEBサイト https://d4p.world/
◆Twitter https://twitter.com/KeiSatoJapan

(2011年2月15日掲載)

さて、前回は初めての海外での経験を書かせて頂きました。今回は、その後いっそうあちこちに足を運ぶことになった経緯についてお話します。

当時大学で芸術を専攻していた僕は、ある時自分の作った作品の中に嘘があることに気付きました。嘘という漢字は、口に虚があるという形をしています。つまりは中身の無い言葉という意味です。平和や愛、自由や命の価値など、どれだけ作品の中に込めてみたつもりでも、そこに詰め込められていたものは、綺麗な体裁を整えただけのカラッポな想いでした。僕は何も知らない。僕はなぜ生きているのか、そしてこれからの人生を何のために生きていくのか、何も知らないのだということに気付きました。生というもの、そして死というものを強烈に考え始めたのです。

僕が初めて死について想いを巡らすことになったきっかけは、姉弟との死別体験でした。幼少の頃に小児がんで亡くなった弟、そして僕が高校生の頃に命を絶った姉、ふたりの死が、僕の心の中にずっとずっと纏わりついていました。自分が作品作りに行き詰った時、再び死を理解したい、自分なりにきちんと考えたいという想いが強烈に湧きあがってきたのです。

それまで僕は、死というものをネガティブなものとしてしか捉えていませんでした。しかし初の海外体験で得たもの、それは、世の中には多種多様な価値観が存在するのだということです。僕の持っている死というものに対する価値観。もしかしたら、これもまた広い世界の中の、ほんの一部の価値観でしかないのかもしれない。そういう想いから、もっともっと海外へ出たい、多くの人と触れ合い、様々な価値観に触れたいと思うようになりました。

大阪の大学を辞め東京へ出て、英語を勉強しながら仕事をし、時間と金を作っては海外へ渡航するようになりました。西ヨーロッパを一周する予定で出た旅では、パリの芸術にすっかり没頭し、美術館巡りにお金を使い果たしてしまい、しばらくオランダのホテルで働いたり、観光ガイドをしたり、旅人相手のビリヤードで稼いだりして過ごしたこともありました。タイの北部ではオート3輪の運転手のおじさんと喧嘩をしたり、フィリピンでは人生で初めて銃を突きつけられたり、注意不足故の様々な失敗も経験しました。

そんな多様な経験の中で、最も印象に残っている地があります。悠久と混沌の国、インドの東部にあるバラナシという町です。そこには聖なる河、ガンガーが流れており、その流れは死者の魂を輪廻へ誘(いざな)うとされています。この地で死を迎えたいと望む人も多く、遠いところから長い旅を経て、この町で力尽き道端で亡くなる人々もいるそうです。河のほとりでは死体が焼かれ、水面(みなも)には死者が浮いていることもありました。

そんな流れの傍らで、人の死体を食む犬の姿を目撃しました。犬は自身の命を明日へと繋ぎ止めるため、その肉を食らい、命を紡いでいたのです。道端の死体を犬が食む、その光景は、日本の僕の生活の中では絶対に見ることの出来ないものでした。こうして命は輪廻していくのだなと、多種多様な生命の流れる宇宙という河の流れが、しっとりと心に染み入る体験でした。

今でも僕は死というものを理解していませんし、この世界に命を与えられた意味を思うと、自分の小ささと宇宙の大きさに恐れおののくこともあります。それでも、有限な時の中で、命の意味を考え、この世界に自分自身を繋ぎ止めておくためにも、もっともっと多様な価値観を知りたいと思うようになりました。



宇宙に畏怖し、その大きさを知ると、
人の命とは余りにもちっぽけで、
その故かけがえのないものであることを思わずにはいられない。

 
studioAFTERMODE イベントのお知らせ

【講座第1回】  「通貨の歴史と未来、有限の世界の中で未来を描くには」

私たちが生活を送るのに欠かせないお金というもの。
身近にあるのに、これほどその実態を知られていないものもありません。
通貨というものはどうして生まれたのか、
どのような歴史を辿ってきたのか、そして、今後の行方は。
現在世の中に蔓延る多くの問題を考えるにあたり、
通貨の役割をきちんと考察することで見えてくる物事もあります。
紛争、飢餓、貧困、それらの中心には資源の分配という問題が大きな要素を占めています。
限りある地球資源の中で、人間はどのように共生の道を探っていけばいいのでしょう。
一般的な経済学とは一味違ったお金の話。
これからの世界についても、みんなで一緒に考えてみませんか?

 

◆講師: ヤハギクニヒコ (アルスコンビネーター) 
      佐藤慧 (フィールドエディター/ジャーナリスト)

◆日時: 2011年2月19日 18:00~21:00

◆場所: 東京都渋谷区神宮前1-8-8 COXY188ビル6F 3号室 
 ※JR原宿駅から竹下通りを抜けてすぐ

◆参加費: 2,500円 定員は25名を予定しております。

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