グローバルキャリア塾 連載コラム

ジャーナリズムの現場から (第2回)

第2回:記者としての使命感と人道的意識の狭間で

共同通信社外信部デスク

半澤 隆実(はんざわ たかみ)

1962年福島県会津若松市生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、1988年共同通信社に入社。大阪支社、浦和支局、本社社会部などを経て、外信部へ配属。カイロ支局特派員、ロサンゼルス支局長としてパレスチナ紛争、アフガン、イラク戦争、ハリケーン「カトリーナ」被害などを取材。2007年から外信部デスク。著書『銃に恋して 武装するアメリカ市民』(集英社新書)

(2009年5月15日掲載)

2008年に開催された「自分らしく生きるための就活応援セミナー」(主催:早稲田総研インターナショナル・キャリア教育研究所/「グローバルリーダー養成プロジェクト」関連で、講師の一人として登場した共同通信社外信部デスク・半澤隆実さんの講演(2008年6月28日開催)内容から抜粋し、3回に分けてご紹介します。


2回目タイトル: 記者としての使命感と人道的意識の狭間で 

― 一般的に記者の仕事は拘束時間が長くてキツイという印象がありますが、実際のところはどうですか?

半澤:たしかに特定の事件を追っているときは、キツイ場合もあります。たとえば、警察担当の記者の場合、事件に関する情報を警察関係者から朝一で聞き出すため、その警察関係者を出勤前につかまえようと、朝4時半に起床して、警察官舎の前に張り込んだりするんです。そして、昼はその他の関係者などを取材し、夕方には記者会見に出たり、他の取材をしたあと、今度は「夜回り」と称して、警察関係者の自宅を突撃取材するのです。夜回りは多い人だと一晩3~4軒、距離にして200~300キロを車で走り、早ければ午前0時に社に戻って記事を書きます。それが終わるのが午前3時とか4時。こんな生活が1週間続くこともあります。こうなると、自宅に帰ってもふとんで寝てしまうと起きられないので、ソファーで休むという記者もいます。私は仕事がこんな状態になったときは、移動中の車中で寝て、体力を維持していました。

また、海外特派員は担当地域で戦争や災害が起きると、3~4ヶ月は現地に滞在します。その間は、自分も現地の被災者と同じように、身の安全と日々の食料の確保などに気を遣いながら、取材して記事を書かなくてはならないので、キツイと言えばキツイですね。
   
― 若い頃の失敗談について聞かせてください。

半澤:今でも印象に残っているのは、オウム真理教に破防法を適用するかどうかが審議されているときに、麻原被告(当時)が収監されている拘置所で聴聞会が開かれたのですが、それを取材しに行く途中でトイレに行きたくなり、拘置所への到着が遅れて、結局、聴聞会を傍聴できなかったという大失態をやらかしたことがあります。あの頃は若かったですね…。その後の1週間は、社内をひたすら謝りながら行脚するはめになりました。

― では「これは上手く行った!」と満足できた仕事は?

半澤:2003年のイラク戦争でフセイン政権が崩壊した後に、イラク国内が一時期無政府状態になり、略奪が横行したのですが、そのときにイラク市民による核施設からの放射性物質容器の略奪をスクープしたときは、結構良い仕事が出来たと思いました。

略奪行為をしたイラク市民は、放射性物質が欲しかったのではなく、それが入っているステンレス製容器を風呂などの日常用途に使いたくて、中身の核物質をそこら辺に捨てたりしたため、一般市民が被爆するという事件が発生していたのです。下手をすると、自分も被爆するかも知れないという状況の中で、体を張って記事を書いたという充実感はありましたね。
 
― 戦争や紛争の現場は、怖くないですか?

半澤:常に危険と隣り合わせですので、怖いですよ。これまで7名の知人が戦地や紛争地域で命を落としています。アフガンで取材地への移動を共にしたロイター通信の外国人記者が射殺されたときは、特に死を身近に感じましたね。

― 戦地や災害地を取材していて、「この現状を世界に知らせしめなくては」という記者としての使命感と「怪我をしている現地の人たちに手を差し伸べるべきではないか」という人道的意識の狭間に立たされたことはありますか。

半澤:戦地取材をしている記者やカメラマンに対して、昔からよく問われる問題ですね。衰弱してたたずむ少女の写真でピューリッツァー賞を取ったカメラマンが「シャッターを押す暇があったら、なぜ助けない」と激しい非難を浴びて議論を呼んだこともありました。

私もトルコで発生した地震を取材したときに、宿泊地から被災地まで200キロくらいの距離を車で往復しながら、取材を続けていたのですが、一度、道中で助けを求めてきた怪我人を遠隔地の病院まで送り届けたことがありました。その後、もう一度同じようなことがあったのですが、そのときはその人を病院に送り届けていては、日本の朝刊の締め切りに間に合わなかったので、悩んだ末にお断りしました。

この苦渋の選択は、助けを求めてきた人は、命に関わるような怪我を負っているわけではなく、その人を病院に送り届けるよりも、GDP世界第2位の国である日本に被災国の現状を知らせたほうが、募金や義援金活動を促すことになり、事実上より多くの人が助けられるとの判断に基づくものでした。

ジャーナリストの使命は、事実を報道することですので、この判断は正しかったと、今でも思っていますが、助けを求めてきた人が生死に関わる状況にあるケースに出くわしたら、すごく悩むでしょうね。

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