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コラム「ジャーナリズムの現場から」第4回

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第4回:カミカゼ  (前編)

半澤 隆実氏

共同通信社外信部デスク

半澤 隆実(はんざわ たかみ)

1962年福島県会津若松市生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、1988年共同通信社に入社。大阪支社、浦和支局、本社社会部などを経て、外信部へ配属。カイロ支局特派員、ロサンゼルス支局長としてパレスチナ紛争、アフガン、イラク戦争、ハリケーン「カトリーナ」被害などを取材。2007年から外信部デスク。著書『銃に恋して 武装するアメリカ市民』(集英社新書)

かつて私が3年ほど住んだ中東で、日本人はかなり人気がある。「日本人」はアラビア語で「ヤバーニ」。「おい、ヤバーニお茶を飲んでいけ」「おいヤバーニ、うちの息子たちに日本の話をしていけ」「おい、おい、ヤバーニ、カメラは何を持っている」。中東地域でも、人懐っこさでは群を抜くカイロで繁華街などを散歩しようものなら、右や左から「ヤバーニ」の声がかかる。

結局は「おい、このイチゴを買っていけ」だの「たばこ代を貸せ」といった商売、たかりが目的である場合も少なくはないのだが、根底には親愛と尊敬を日本に対して持っていてくれている。なぜ?理由は日本の現在と過去に一つずつある。

まずは言わずと知れた経済・技術力だ。遥か東方の小さな島国が米国に次ぐ経済力を誇り、トヨタ、キャノン、ソニー……と、ため息の出るような品々を次から次へ作り出す。 お世辞にも器用で勤勉とは言い難い中東の人々にとって、魔法のような力だ。

もう一つの理由は過去、つまり歴史から来ている。太平洋戦争だ。「あの強大なアメリカと4年間も戦った。日本は素晴らしい国だ」との賛辞をよく耳にした。中国大陸への侵略や真珠湾奇襲、広島、長崎を考えれば、褒められる方も複雑な心境だが、日本の力に対する素直な尊敬の念ではある。

中東のアラブ人にとって、米国は、イスラム教徒であるパレスチナ人を抑圧するイスラエルの最大の支援者である。本来、アラブの大海に浮かぶ小島に過ぎないイスラエルにエジプトやシリアなど地域大国が勝てないのは、軍事技術を柱に莫大な援助を米国がイスラエルに対し行っているからに他ならない。この構図によって、アラブの対イスラエル憎悪は対米憎悪に転化、国際テロ組織アルカイダによる2001年にニューヨークで起きた中枢同時テロの素地をつくった。

少々固い話が続く。ここからが今回のコラムの本題である「カミカゼ」についてだ。こうしたイスラエル・米国連合に対する不満を解消してくれるのが、イスラム過激派による自爆テロで、抑圧者からイスラム教徒の仲間を救うため命を投げ出して殉教の道を選ぶ。この行為を、アラブの人々は日本が太平洋戦争末期に実行した神風特別攻撃にちなんで親愛の情を込めて「カミカゼ」と呼ぶ。

欧米でもメディアを中心に自爆攻撃を「カミカゼ」とよぶことはあるものの、そこにはやや侮蔑の意味が込められているように思う。末期的な悪あがき、無意味な死という否定的な見方が根底にある。だがアラブの場合、その言葉にはわが命を犠牲にして同胞を救う行為に対するプライドが込められている。

私はこの言葉が過激派の自爆攻撃に当てはめられるたび違和感を覚えていた。イスラエルのエルサレムで自爆テロが起きる、標的はピザ屋だったり市場だったりする。ランチタイムの勤め人や親子連れが吹き飛ばされる。パレスチナ紛争とは本来なんの関係もなり小さな子供の手足や目を吹き飛ばし、一生を車いすに縛りつけ、永遠の闇の世界に突き落とす。

こんなものがカミカゼ≠セろうか―。大戦中、無数の若者命を奪った神風攻撃を肯定するつもりは毛頭ないが、攻撃対象はあくまでも軍事目標であった。敵の空母であったり戦艦であったり、いずれも戦闘員の殺傷が目的であった。民間施設の一般人を意図的に殺そうとした例は(ないと断言できる知識はないが)知らない。だが、イスラム過激派の自爆は最初から民間人の殺傷を明確な目的としている。

2001年9月11日、私のこの違和感が明確に怒りに変わった。

(…続く)



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