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コラム「アジアの熱風」第15回

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第15回:タイは寛容な国か?

西尾 英之さん

英文毎日室長、ザ・マイニチ(旧 毎日デイリーニューズ)
編集長

西尾 英之(にしお ひでゆき)


1963年生まれ。87年毎日新聞入社。福島支局、社会部などを経て03年から特派員としてパキスタン、インド、タイの各国に駐在。12年4月から現職。

アジア各国を渡り歩く日本企業の駐在員たちと飲んでいて「どの都市が一番暮らしやすいか」が話題に上ったことがある。「そりゃバンコクだよな」。多くの駐在員の意見は一致した。「駐妻」(駐在員の妻をそう呼ぶ)の間でも、ほぼ同じ意見だという。

バンコクに暮らす日本人は、大使館に在留届を出している人だけで約3万6000人。届けを出さずに長期滞在している人を合わせればその倍に上るともいわれる。世界でも一、二を競う規模の巨大な日本人コミュニティーだ。

日本人が集中する地域に住んでいれば、日本語以外ほとんど使わずに済む。豊富な日本人向け外食店に日系のスーパーマーケット。東京と同じレベルの食生活が、より安価に可能だ。だがバンコクの「暮らしやすさ」は、そういった外見的な面だけではない。客をもてなしているのか自分が楽しんでいるのかよくわからない駐在員の接待文化。駐妻たちのお付き合い文化。さらに、定職に就かずにダラダラと長期滞在を続ける「沈没組」まで、日本人はバンコクに、日本の文化や生活習慣そのままの暮らしを持ち込むことができる。

実はバンコクの居心地がよいのは日本人だけではない。スポーツ・バーで馬鹿騒ぎに明け暮れるドイツ人。イスラム教の戒律の厳しい母国を離れ、酒や風俗産業にのめり込むアラブ人やイラン人。最近急激に増えているロシア人は、空港の入国審査の列からウォッカをラッパ飲みだ。「タイでなら何をやっても許される」。そんな雰囲気が世界の人々をバンコクに引き寄せてきた。

タイ経済の急成長の裏には「外国人に寛容」なタイ人の気質がある。観光産業はもちろん、世界から投資が集中する自動車産業の隆盛もだ。「タイの現地工場で『我が社流』を貫いても従業員は付いてきてくれるが、インドで同じことをやれば強烈な反発を食う」。大手自動車メーカーの駐在員からそんな話を聞いた。

だがタイで暮らしていると、タイの人々の心には表と裏があることに気がつく。悪口と取られると困るが、タイ人は表面的な寛容さ、柔らかさの反面、内側に固い芯があり本音を見せない面がある。

日本人がいない場では、タイ人同士で日本人の悪口を言い合っている。私のタイ人スタッフは時々「面白過ぎて、話さずにはいられない」という表情で、外国人のバカ話を注進した。「ねぇ。知っている? イラン人のカップルがきのう、パタヤの海水浴場で昼間から○○して捕まったのよ」。私が日本人だから話すのであって、イラン人の前では決して言わない。もちろん私の前では日本人に関する話は話さない。

バンコク在住の外国人の中には、タイ人の寛容さに甘え、自分の国ではとてもできない暮らしを送る人がいることは事実だ。だが、タイ人は外国人にただ寛容なのではない。その寛容さは、「外国人だから仕方ないか」とのあきらめ、あるいは外国人に対する見下しの気持ちなのだ。

重苦しい日本社会に比べ、バンコクは自由で柔らかい。法さえ犯さなければ何をやっても許されるのは確か。でも、日本を脱出して新たにバンコクを目指そうという若いみなさん。時には、地元の人が心の奥で私たちをどう見ているかを意識して、行動を律することも必要。彼らは内心「どうしようもない外国人」と、あなたのことを笑っていますよ。



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