スマ-トフォン向けサイトへ
サポートセンター

コラム「アジアの熱風」第4回

トピックス

グローバルキャリア塾・連載コラム

アジアの熱風

> > アジアの熱風

第4回:ラマダン月

西尾 英之さん

英文毎日室長、ザ・マイニチ(旧 毎日デイリーニューズ)
編集長

西尾 英之(にしお ひでゆき)


1963年生まれ。87年毎日新聞入社。福島支局、社会部などを経て03年から特派員としてパキスタン、インド、タイの各国に駐在。12年4月から現職。


いま、イスラム世界は「ラマダン」(断食月)の真っ最中だ。今年のラマダンは7月中旬から1カ月。教徒は日の出から日没まで一切の食事を口にしない。食事どころか水も飲まない。教徒以外にとってラマダンは「理解しがたく恐ろしげ」なイスラムを象徴するイメージがある。だが実際に体験してみるとムスリム正月を前に1カ月続く「大晦日」のようなもの。期間中にイスラム地域を訪ねる機会があれば、地元の人とともに「断食」をぜひ体験してみてほしい。

イスラマバードのモスクを訪れた地元市民(西尾撮影)「3、2、1、ゼロ」。住宅街に子供たちの声が響く。日没にあわせ「きょうの断食の終わり」を告げるテレビのカウントダウンに、待ちかねた子供たちが唱和しているのだ。モスク(イスラム礼拝所)から流れるアザーン(礼拝の呼びかけ)と相まって、なんとも心安らぐ瞬間だ。

私は10年ほど前、赴任直後のパキスタンの首都イスラマバードで物珍しさもあって1カ月の断食を「完全体験」した。期間中は夜明け前にたっぷりの朝食を取り、もう一度ベッドに戻る。つらい断食の時間を少しでも短くしたいから、誰もが起床時間がどんどん遅くなる。役所も会社も仕事が始まるのは早くても昼前。能率は極端に落ちる。

ようやく仕事を始めても、昼過ぎからはキッチンや道ばたの露店で、日没後に食べる「イフタリ」と呼ばれる食事の準備が始まる。薩摩揚げにそっくりな揚げ物「パコラ」のいいにおいがしてくると、子供だけでなく大人たちも気はそぞろだ。日没のアザーンとともに仲間や家族が集まり、パコラや果物などを並べ盛大に食べ始める。酒の代わりに甘いジュース。さらにその後、夕食だ。

ラマダン期間中は夜間に大量に食べるため、大部分の人は太る。国の統計でも、ラマダン月は食品への支出が他の月に比べて大幅に伸びる。

ラマダン月が終わるとイスラム教最大の祭り「イード」を迎える。学校や会社は完全に休みになり、人々は帰省して家族と過ごす。多くの国民にとってラマダンの断食は、イードに向かって気持ちを盛り上げていく助走の一カ月だ。日本人にとっての師走と同じ。慌ただしくも、正月に向けた胸弾む季節なのだ。

実際には異教徒には断食は強制されない。イスラム教徒でも体調が悪ければ断食を中止してもよい。また子供は除外される。だが、たいていの子供は物心つくと、親とともに「断食」したがる。断食が「大人の仲間入り」のしるしのような気持ちなのだという。

つらい断食を「共有」することは、ムスリムとしての同胞意識を高めることにもつながる。外国人がラマダンに完全挑戦していることを知った地元テレビが、私と地元の高名な宗教指導者との「対談」を企画してくれた。イスラム過激派の親玉のような容姿の指導者は、心からの笑顔で「あなたはすでにムスリムの資格がある。その気になったらワシに知らせなさい」と言って、教徒としての名前まで授けてくれた。

イードでは自宅でヤギや羊をと殺して、近所に振る舞う習慣がある。ラマダン月後半から家々につながれる動物たちの哀れな鳴き声には、なんとも閉口した。だが1カ月の体験で、私のイスラムへの誤解や偏見は消えた。彼らも家族との暮らしを大切にし、生活を楽しむ人間である。

イスラムへの改宗だけは、家族の反対で今も実現していないが。

イスラマバードのモスクを訪れた地元市民(西尾撮影)

Share (facebook)  このコラムをFacebookでシェアする。

  • カウンセリング予約
  • 説明会イベント
  • 資料請求

ページトップに戻る