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コラム「アジアの熱風」第6回

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第6回:インドの赤旗

西尾 英之さん

英文毎日室長、ザ・マイニチ(旧 毎日デイリーニューズ)
編集長

西尾 英之(にしお ひでゆき)


1963年生まれ。87年毎日新聞入社。福島支局、社会部などを経て03年から特派員としてパキスタン、インド、タイの各国に駐在。12年4月から現職。


インドを旅して、労働組合のストライキにぶつかった経験のある人はいるだろうか? 「団結バンザイ」「要求を受け入れろ」。声をそろえてアピールする労働者。旧ソ連国旗と同じ「赤地にカマとトンカチ」の旗がひるがえる。日本では労働者による大規模なストライキはすっかり影を潜めた。各地で頻発するインドの労働争議は、子供のころ「交通ゼネスト」などを見て育った私たち中年以上の世代には、なんとなく懐かしさを感じる光景だ。


スト決行中の労働者たち(インド北部ハリヤナ州で西尾撮影)今年7月、日本の「スズキ」の子会社でインド最大の自動車メーカー「マルチ・スズキ」社の現地工場で、従業員による大規模な暴動が発生。工場は長期間の操業停止に追い込まれ、日本でもインドの労働問題に注目が集まった。

だが労働争議はスズキだけではない。トヨタやホンダを含めた主な外資系企業の現地工場は、これまで軒並み従業員によるストライキの頻発に悩まされてきた。

外資系工場の労働者は、一般的なインドの労働者に比べればかなりの高給取りだ。それではなぜストが起きるのか。現地の専門家は「大企業に勤める労働者にはかつての国営企業中心の時代の感覚が残り、業績がどうあろうが多額の給与がもらえるという考えが抜けないためだ」と指摘する。日本メーカーの現地社長は「我が社は民間企業だ。給料を上げても会社がつぶれればどうしようもない。今は経営者と労働者が手を取り合って会社を発展させていく時代だ」と嘆いた。

だが労働組合の幹部は「どの国の企業も自国では労働者と共存共栄しているのに、インドに来ると労働者の権利を無視して利益をむさぼる」と反発する。私が取材した若い組合幹部は「経済成長で多くのインド人が車を買えるようになり会社は潤っているのに、我々は車を買うどころか家賃を払うことで精一杯だ。これが世界の脚光を浴びるインド経済の実像だ」と訴えた。

外国からの投資を受け入れ国際経済に組み込まれることで、インドでは「ミドルクラス」(中間層)と呼ばれる、小型自動車購入に手が届く都市住民層が急増。その数はすでに1億人を超えたとの見方もある。その自動車を製造している工場の労働者たちは、新興中間層の姿を横目で見ながら「自分たちは経済成長の十分な恩恵を受けていない」との不満を強めているのだ。

インド国内の主要メディアは「頻発する労働争議は海外企業のインドへの投資に悪影響を与える」と批判的な論調だ。だがストの頻発は、インドが民主主義の国であることの証しでもある。強権主義の国ならば、国策に沿わないストに対してはたちまち警官隊が介入し、実力で鎮圧してしまうだろう。

実はストが許されないアジアの他の国々でも、労働者たちの不満はインドとまったく変わらない。「人件費が安い」との理由でアジアに進出する企業は、労働者の声に耳を傾けないと、いずれ手痛いしっぺ返しを食う。



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