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コラム「アジアの熱風」第9回

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第9回:スカイトレイン

西尾 英之さん

英文毎日室長、ザ・マイニチ(旧 毎日デイリーニューズ)
編集長

西尾 英之(にしお ひでゆき)


1963年生まれ。87年毎日新聞入社。福島支局、社会部などを経て03年から特派員としてパキスタン、インド、タイの各国に駐在。12年4月から現職。

バンコクは東京と変わらなくなったなぁ。最も強くそう感じたのは、バンコク都心部を東西南北に走る高架鉄道「スカイトレイン」に乗るときだ。朝夕のラッシュ時の混雑は日本の通勤電車と変わらない。隣の乗客に押されながらつり革にぶら下がっていると、南国にいることを忘れ東京に帰ったような気になる。


年々混雑が激しくなるスカイトレイン(西尾撮影)世界最悪と言われた道路渋滞の緩和を目指して1999年に最初の区間が開業した。運賃が高架下を走る路線バスの数倍することもあり、開業当初は車内は常に閑古鳥が鳴いていた。乗客のタイ人は、バンコク初の「電車」に乗ってみようという物見遊山風の家族連ればかり。こんな調子では運行は長くは続かないのではないか。当時私はそう心配した。

乗客が急増し始めたのは2000年代半ばからだ。経済成長で給与水準が上がり、現地の物価感覚では200〜400円もする電車代(バスなら冷房車でも150円程度)の支払いに抵抗感がない人が増えた。もう一つの理由は、今世紀に入っての原油価格の高騰だ。急騰したガソリン代に音を上げ、それまで自家用車を使用していた中流階級の人たちも電車通勤に切り替えた。


渋滞に巻き込まれず目的地に着くことができる。電車の便利さに目覚めた人々で、今ではスカイトレインは東京の電車並みに混雑している。だがよく観察してみると、東京とは違う点も多い。

私は東京で満員電車への乗車に慣れている。ドアから人があふれそうなラッシュ時、ドアに手をかけ力を込めて強引に乗り込む。ほっとしてホームを眺めると、いっしょに待っていた客はあっさりと乗車をあきらめ次の電車を待っている。

「急いだって仕方ない。電車が混んでいたんだから、遅刻しても許してくれるでしょ」。私のオフィスのスタッフは涼しい顔でそう言った。「雨が降っていたから」「道が混んでいたから」で遅刻が許されるバンコクの時間感覚は健在だ。

最近の日本の電車と同様に、スカイトレインの車内にも広告などの映像を流すモニターが設置されている。違いは、日本ではモニターが音を発することはないのに比べ、バンコクでは大音量で音楽やナレーションが流されていることだ。携帯電話での通話も特に禁じられていない。車内は日本に比べはるかににぎやかだ。

東京では、乗客の誰もが他の客に迷惑をかけまいと懸命に我慢しているように見える。スカイトレインの車内には、東京で感じる重苦しい雰囲気はない。


決定的な違いをもう一つ。私はバンコク在勤の3年間ずっとスカイトレインで通勤したが、「電車への飛び込み自殺」に遭遇したことは一度もなかった。帰国後、東京では少なくとも月に一度は「人身事故によるダイヤの乱れ」を経験している。

最初に「バンコクは東京と変わらなくなった」と書いた。でも、東南アジアのこの大都市は、閉塞感が強い日本の首都・東京とは違う進化の道を歩んでいるのかもしれない。寒い東京で通勤電車に揺られながら、陽気で少しいい加減なバンコクを懐かしく思う。


ビルの谷間の高架橋を走り、道路渋滞の影響を受けない


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