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コラム「Mainichi Daily News編集長の目」第18回

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第18回 2010.11.1 インドの旅

ナバ 高田容冶氏

英文毎日編集部長、毎日デイリーニューズ
編集長

福井 聡 (ふくい さとし)

1954年名古屋市生まれ。80年毎日新聞入社。甲府支局、東京社会部、外信部、90-93年アフリカ特派員ハラレ支局長、93-95年同ヨハネスブルク支局長、99-03年ウィーン支局長、03-05年外信部副部長、05-09年パリ支局長、09年4月から現職。著作 『アフリカの底流を読む』(ちくま新書)、『南アフリカ 白人帝国の終焉』(第三書館)。
パリ支局長時代の経験をもとにフランス社会の抱える問題について書かれたコラム「ボボたちのパリ」も同時連載中です。>>連載コラム「ボボたちのパリ」

タージマハールインド外務省が日韓両国記者を招いたプレスツアーに加わり、インドに行って来た。毎年8%以上の経済成長率を続け、IT産業は急伸、12億人の人口は近く中国を抜く---。

インドを巡っては近年急成長を続け、米中に匹敵する潜在的超大国のイメージがあった。確かにIT産業は隆盛、郊外には新興ビル群が立ち並び、街中は人と車であふれていた。しかし、デリーからタージ・マハ―ルまでの220キロは道路未整備と渋滞で片道5時間もかかり、途中の街の風景も途上国のそれを超えていない。この風景と先進的なイメージのギャップが旅の間中ずっと頭から離れなかった。

ギャップは最初からしばしば感じた。外務省が手配したデリー中心部の豪華ホテル、街中に広がる緑の公園、ヤムナー河沿いに立つ壮大で優美なタージ・マハ―ル---などの洗練された先進性や重厚な史跡がある一方、路上には人力車やオート力車があふれ、さらにゆったりと横切る牛やロバも少なくない。19世紀と21世紀が混在しているのだ。

オートリキシャ車は多く、日本製のスズキや国産のタタやマヒンドラが疾走している。が、よく見ると、中国や中東でみる高級車や大型車は少なく、軽自動車や小型車が中心だ。軽・小型車中心のスズキがインド進出で成功したのは理にかなっている。逆にいえば、インド人は着実に手の届く範囲で車を購入しているわけで、堅実さの一面を示している。小型車中心でも人口のパイが巨大なため「数の論理」で国全体の成長率を押し上げているのかもしれない。


車の運転マナーはひどい。車線はあるがスキありとみればどこへでも突っ込み、ぶつかりそうになるたびにクラクションが鳴り響き、路上は常に狂詩曲が鳴り響いていている。さらに突然、ゆっくりと闊歩する牛が中央車線上にあらわれたりもする。ある時、路上を横切ろうとした牛の一群で車が急停止した際、ガイド役の外務省職員、デバートさんは「車も人も牛も同等に扱う、これこそ民主主義だ」と胸を張った。

ギャップについて、レディ外務次官は「IT産業も貧しい街並みも8%の高成長もすべてインドの現実だ。この国は今、すべてをのみ込む変化の中にいる」と話した。ITや鉄鋼産業が全体を引っ張り、成長率を押し上げているようだ。「通貨ルピーの価値が低く抑えられており、繊維や鉄鋼の輸出が好調」という声もあった。ちなみに、インドのIT産業は「ソフトは強いがハードは弱い」とされ、携帯はあふれる一方、キンドルやiPadはほとんど普及していない。

タクシーの運転手に「経済成長は感じるか。暮らしはどうか」と聞くと、「まったく感じず、暮らしは苦しい。経済成長は豊かな層に限られ、中産層も増えていない」との答えが返ってきた。車の数からして都市部での中産層は増えている印象はあるが、貧しい層から見れば中産層に上れる人はごくわずからしい。

その中産層を巡っては興味深い指摘がある。通常どの国でも、経済が成長し収入が安定するとそれぞれが独立しようとし、家族との絆が弱まって行く。また、女性が就職すると経済的な独立が得られ、東京では「女性が結婚したくない」という現象まで起きている。しかし、デリーのヒンドスタン・タイムズ紙のハラ―ンカ―編集長は「インドでは将来の社会保障制度がなく、財政的に独立できても家族の絆は今も強い。新聞の案内欄には同じ宗教、同じカースト(社会階層制)の相手を求める告知があふれ、見合い結婚が特に地方では圧倒的だ」と話した。

南部ハイデラバードのクロニクル紙のジャヤンティ編集局長も「圧倒的な多様性が前提にあるため、家族、宗教、カーストの絆は変わらない」指摘し、中国人との比較では「社会保障が前提の中国と違い、インド人は現実的にならざるを得ない。豊かになったインド人が日本に行っても、土産で散財することはないと思う」と話した。インドの車が小型車ばかりの事実とも符合している。

インドという巨大バスは、さまざまなギャップを抱えながらばく進して行きそうだ。





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