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コラム「Mainichi Daily News編集長の目」第25回

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第25回 2011.6.1 太地の漁師の未来

ナバ 高田容冶氏

英文毎日編集部長、毎日デイリーニューズ
編集長

福井 聡 (ふくい さとし)

1954年名古屋市生まれ。80年毎日新聞入社。甲府支局、東京社会部、外信部、90-93年アフリカ特派員ハラレ支局長、93-95年同ヨハネスブルク支局長、99-03年ウィーン支局長、03-05年外信部副部長、05-09年パリ支局長、09年4月から現職。著作 『アフリカの底流を読む』(ちくま新書)、『南アフリカ 白人帝国の終焉』(第三書館)。
パリ支局長時代の経験をもとにフランス社会の抱える問題について書かれたコラム「ボボたちのパリ」も同時連載中です。>>連載コラム「ボボたちのパリ」

福島第一原発の原子炉内で起きていたメルトダウンで、圧力容器の底にたまった溶融済の核燃料がどうなるか、世界中の関心が続く中、他にも興味深い事件は起きている。環境保護団体の妨害のため、今年の調査捕鯨が中止となり、日本の捕鯨自体がどうなるかと気になっていたら、NHKが「クジラと生きる」という番組で、和歌山県太地町で続く伝統的な捕鯨漁師たちのルポをやっていた。そう、アカデミー賞を取ったあの映画、「ザ・コーブ」がやり玉に挙げた漁師たちだ。

漁師たちは400年来、先祖からの伝統を引き継いでクジラ漁を続けてきた。伝統の囲い込みでクジラを入江(コーブ)に追い込んだ後、殺害して陸に挙げ、料理して食べるーー。漁師として当然の手順だが、保護団体シーシェパードらの外国人たちは「クジラはほ乳類で知能が高く、殺害は許されない」として、漁師たちのあらゆる作業で妨害に入る。入江での殺害の場面を盗撮して、ネットで世界中に報じる。殺害場面はたぶん牛や豚の家畜も同じだろうが、彼らは「家畜とクジラは違う」の立場だ。

漁師たちも、私を含む日本人の多くも「家畜とクジラはどう違うのか?」と思うが、家畜を食べる歴史の長い西洋人は宗教観もあるのか、違うらしい。違っても、「食文化、生活文化の多様性は容認すべき」と思うが、反対派は強硬だ。外国でも沿岸捕鯨を許容する人はいるはずと思うが、西洋人の圧倒多数はどうやらクジラ・イルカ類の保護では譲らないようだ。日本でも、太地の漁師たちの気持ちは理解する一方、クジラやイルカを食べる人は極端に少なく、漁師たちが国内で強い支持に支えられている訳でもない。

太地のクジラ漁師は現在約20人。他に全国十数カ所で沿岸捕鯨が続いているそうだが、どう見ても「絶滅危惧」状態だ。しかも、世界を相手に完全に防戦一方。入江にシートをかけて殺害現場を隠すばかりでは、退潮は止められない気がする。生き残りを図るなら、「食文化の多様性を守れ!」と世界のメディアに訴えるなどの戦略が必要だ。ルポからは戦略の意図は見られず、感じたのは「いずれ消え行く」儚い気配ばかりだった。



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