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コラム「Mainichi Daily News編集長の目」第34回

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第34回 2012.3.1 ミケランジェロの暗号

ナバ 高田容冶氏

英文毎日編集部長、毎日デイリーニューズ
編集長

福井 聡 (ふくい さとし)

1954年名古屋市生まれ。80年毎日新聞入社。甲府支局、東京社会部、外信部、90-93年アフリカ特派員ハラレ支局長、93-95年同ヨハネスブルク支局長、99-03年ウィーン支局長、03-05年外信部副部長、05-09年パリ支局長、09年4月から現職。著作 『アフリカの底流を読む』(ちくま新書)、『南アフリカ 白人帝国の終焉』(第三書館)。
パリ支局長時代の経験をもとにフランス社会の抱える問題について書かれたコラム「ボボたちのパリ」も同時連載中です。>>連載コラム「ボボたちのパリ」

ウィーンにいた時、ひょんなことからユダヤ人の若手研究者2人を取材することになった。そもそもウィーンのユダヤ人は大戦中に逃亡したか殺害され、現在は東欧から移ってきた少数のみとなっているが、旧ウィーン在住者の末裔もわずかながら戻ってきていた。彼らから聞いた話は衝撃的だった。1938年のナチスによるウィーン侵攻直前に、一般市民がユダヤ人の家、商店、ビルを一斉に略奪して金品や家屋を奪ったというのだ。2人はその事実を立証する証拠・記録を長年にわたって集めており、信じざるを得なかった。彼らに会って以降、私のウィーンの見方は少なからず変わった。

先日、「ミケランジェロの暗号」という映画を見た。38年に侵攻したナチスがユダヤ人画商からミケランジェロの絵を没収する話がテーマで、監督はオーストリア人だが脚本はユダヤ人が書いていた。私が取材したのは「市民による略奪」で、映画は「ナチスによる没収」だが、いずれも被害者がユダヤ人である点で共通していた。しかし、映画を見ていてふと、別のことを感じた。ユダヤ人の主人公がナチス将校に移送される途中、飛行機が撃墜され、生き残った主人公がナチスの追っ手が迫っていることを知り、とっさに将校と服を着替え、すり替わる。やがては見破られるが、一時期、彼はユダヤ人となった将校に横暴に振る舞う。

大道芸でにぎわう夏のウィーン。「市民による略奪」の影は日常からは消えている。(福井撮影)ナチスがユダヤ人に行った犯罪は許されるものではないが、映画を見ていて「人は立場が変わればユダヤ人であろうとドイツ人であろうと、どんな卑劣な行為もするものだ」と感じた。戦時下にはそれを強いたぎりぎりの状況があった。そう思うと、ウィーン市民がかつての略奪をなかったことのように暮らしているのも分からなくもなかった。いや、やはり被害者にとっては許されざる行為か…。



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