グローバルキャリア塾 連載コラム

写真に込める一瞬のエネルギー (第3回)

第3回:“伝える”写真、“残す”写真

認定NPO法人Dialogue for People 所属
フォトジャーナリスト

安田 菜津紀

1987年神奈川県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。

◆WEBサイト https://d4p.world/
◆Twitter https://twitter.com/NatsukiYasuda

(2011年5月1日掲載)

3月26日、震災から2週間後、私は同じ事務所のジャーナリスト佐藤慧と共に、陸前高田に向かいました。一面の瓦礫に埋め尽くされた市街地、その間に残された家具の一つ一つに、かつて人々が静かに生活を営んでいた2万人の痕跡がありました。シャッターを切るわけでもなく、ただただそこに立ち尽くすしかありませんでした。

そんな圧倒的な光景の中、よく見ると瓦礫の撤去作業にあたっている自衛隊や工事の方々が、積み重なるコンクリートや木の柱の間から、大切そうに何かを拾い集めているのです。水につかって色あせながらも残っていた、写真たちでした。拾い集めた写真やアルバムを、貴重品と一緒に届けているのだそうです。「津波で思い出まで流されちゃいけないからね」、と。

「3月11日は、卒業アルバムが届いた日だったんです。でもアルバムも、学校に保管していた写真も、全て流されてしまいました」。最も海に近い中学の先生はそうお話されていました。3年間の思い出の形、大切な仲間と歩んできた軌跡が込められている写真が、一瞬にして波に飲まれてしまったのです。

4月21日、陸前高田では少しずつ、桜が咲き始めていました。この日、各小中学校では、少し遅い入学式が行われていました。残念ながら街の写真館の方々の姿は、この日学校にはありませんでした。市街地は壊滅、写真館も流され、学校の先生方も写真を撮る余裕もないほど疲弊していたのです。

この日NPO「みんつな」のプロジェクトとして、写真家の先輩方にもご協力頂きながら、6校の入学式の記念撮影を行なわせていただきました。私が担当させて頂いた小学校では新入生が2人、仲良くランドセルを並べながら、緊張した面持ちで式に臨む姿を、先生方そして親御さんが微笑みながら見守っています。そんな2人をファインダー越しに覗きながら、一枚一枚シャッターを切ります。2人の未来への、希望を込めて。

今まではずっと、「伝える」ための写真のことだけを考えてきました。けれどこの陸前高田で、「残す」ための写真の役割を、初めて身をもって感じたのです。私たちには過去の思い出を再生することは、残念ながらできません。けれどこれから積み上げていく日々を残す、ほんの少しの力にして頂ければ、と思うのです。

撮影データは学校側に全てお渡しさせて頂き、これから町の写真館が復興された際、卒業アルバムの制作などに役立てて頂ければと思っています。新しい日々の始まるこの日の思い出が、「未来につながる写真」となってくれることを信じて。

 

3月11日14時46分、震災発生から止まったままの小学校の時計

3月11日14時46分、震災発生から止まったままの小学校の時計
 

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