グローバルキャリア塾 連載コラム

写真に込める一瞬のエネルギー (第5回)

第5回:1枚の写真から

認定NPO法人Dialogue for People 所属
フォトジャーナリスト

安田 菜津紀

1987年神奈川県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。

◆WEBサイト https://d4p.world/
◆Twitter https://twitter.com/NatsukiYasuda

(2011年7月1日掲載)

7年前のカンボジアでの出会いは、それまでの価値観を決定的に揺るがすものでした。あのとき出会った子どもたちのように、自分も誰かを守れる人になりたい。そう思えたとき、自然と自分自身を傷つけることをやめ、家族との接し方も変わっていきました。そして人として生きる上で大切なことを教えてくれた彼らに、何かを返したい。そんな思いが日増しに強くなっていきました。けれども「伝えたい」思いは胸の内にあっても、どのように表現し、どんな風に伝えていけばいいのか、帰国後の数年間は手探り状態でした。

次の大きな出会いは、1枚の写真から始まりました。高校3年の夏に偶然足を運んだ写真展。たくさんの写真家たちが、各国の戦争の実情を写真に込めていました。会場にはぴんと張り詰めた空気が漂い、どの写真も激しい感情がむき出しになっていました。その中で、1枚の写真に目が止まったのです。ガリガリのお母さんのお乳に、小さな赤ちゃんが必死に吸い付いている写真。内戦下のアンゴラで撮影されたものでした。けれどもそんな絶望的な状況の中で、お母さんの目に子どもを抱える母としての決意のようなものを感じたのです。守りたいものがある人間の強さ。自分の心と何かが共鳴して、その写真の前から足が動かなくなってしまいました。このとき国の名前さえ知らなかったアンゴラの親子と私自身が、1枚の写真を窓にして、確かにつながったのです。

その写真を撮ったフォトジャーナリスト、渋谷敦志さんと出会ったのは、大学2年になってからでした。偶然にも彼は、NPO法人「国境なき子どもたち」と長い付き合いがあったのです。「写真は面白いで。まずはそこに写る、人を見つめてごらん」。

渋谷さんは何よりもまず、人と向き合うことを考える人でした。何が伝えられるか、どうしたら伝わるのか、そして何を一番に守らなければならないのか。渋谷さんと話をするようになってから、私の中でもやもやしていたものが、ふっきれていくのを感じました。写真はそれまで「無関心」だった人の目にも、ふとした瞬間に飛び込み、そして心をつかむ可能性を込められます。かつて無関心だった自分が一つの出会いで変わっていったように、写真を見てくれる人に、そこに写っている人に出会い、何かを感じてもらえることができるかもしれない。気づけば私自身もカメラを手に取り、写真で表現することにのめり込んでいったのです。自分のツールをやっと見つけた。そんな思いが更に、私をカンボジアへとかき立てました。

「なぜ写真なのですか?」ということをよく聞かれます。必ずお答えするようにしているのは、いい写真が撮りたいから、カメラが好きだから写真を撮るのではない、ということです。カメラは飽くまでも、自分が伝えたいことを表現するための手段でしかありません。一番大切なのは出会った人たちとどんな風に時間が共有できるか。そしてその経験を、写真を使うことで、どう昇華していくか。それが出会った人への精一杯の誠意でもあります。
 
次の連載ではその後、どのような取材を重ねてきかた、写真にどんな可能性を見出してきたかをお話したいと思います。

フォトジャーナリスト渋谷敦志さんと、ウガンダにて。

フォトジャーナリスト渋谷敦志さんと、ウガンダにて。

この記事をシェアする
  • LINE

お問い合わせはこちら

毎日留学ナビ 海外留学サポートセンター
東京カウンセリングデスク
東日本の方
0120-655153
お問い合わせフォームはこちら
月~金、第1・3土 10:00-18:00
※最新の営業日は「東京カウンセリングデスクのご案内」にてご確認ください。
【お知らせ】2024年2月より移転しました。

〒103-0025 東京都中央区日本橋茅場町2-12-10
PMOEX日本橋茅場町 H¹O日本橋茅場町 207 (受付は1階)

毎日留学ナビ 海外留学サポートセンター
大阪カウンセリングデスク
西日本の方
0120-952295
お問い合わせフォームはこちら
月~金、第1・3土 10:00-18:00
※最新の営業日は「大阪カウンセリングデスクのご案内」にてご確認ください。

〒530-0001 大阪府大阪市北区梅田2-5-6
桜橋八千代ビル6階