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コラム「写真に込める一瞬のエネルギー」第6回

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写真に込める一瞬のエネルギー

> > 安田 菜津紀さん

第6回:それでも希望に進んでいく

安田 菜津紀さん

studioAFTERMODE 所属
フォトジャーナリスト

安田 菜津紀

1987年生まれ。2003年8月、「国境なき子どもたち」の友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。2006年、写真と出会ったことを機に、カンボジアを中心に、東南アジアの貧困問題や、中東の難民問題などの取材を始める。2008年7月、青年版国民栄誉賞「人間力大賞」会頭特別賞を受賞。2009年日本ドキュメンタリー写真ユースコンテスト大賞受賞。主な写真展に2010年「緑の村」HIVと共に生きる(コニカミノルタプラザ)など。上智大学卒。

◆オフィシャルサイト   http://www.yasudanatsuki.com/
◆ブログ   http://ameblo.jp/nyasuda0330/
◆Twitter http://twitter.com/NatsukiYasuda

カンボジアの首都郊外に、「緑の村」と呼ばれるHIV感染者の村があります。ここでの取材を始めてから、もうすぐ2年が経とうとしています。村人の一人に、チャムロンさん(40)というお父さんがいました。足が悪く、いつも離れた木陰から子どもたちが遊びまわる姿を、ただじっと見ていました。チャムロンさんが肺を患い、病院に運ばれたのは昨年の7月。雨の少ない日が続く、からっと晴れた朝のことでした。奥さんは既にエイズで亡くなっているため、一人息子のペーくん(13)とおばあさんの2人が休むことなく付き添いましたが、その甲斐なくチャムロンさんは病院に運ばれて、4日目に息を引き取りました。焼き場からチャムロンさんの遺骨がかえってくるや、おばあさんがわっと泣き出しました。エイズに蝕まれた遺骨は、ほんの一握りしか残らなかったのです。「息子が小さくなってしまった。なぜこんなことが起きてしまったの」。その横で泣くまいと歯を食いしばるペーくんを前に、言葉を失いました。

チャムロンさんが通っている病院には外国のNGOの支援が入っており、抗エイズ剤を受け取ることができていました。けれども服用しなければならない薬は、時間に非常に厳しい薬です。飲み忘れが重なれば耐性ができてしまい、効果がなくなってしまうのです。教育を受けていないチャムロンさんは時計の文字盤が読めないため、日の出と日の入りに合わせて薬を飲んでいました。時間を厳密に守ることが習慣として根付いていないチャムロンさんにとって、毎日2回の服用は周囲の協力、そして正しい知識や丁寧な指導なしには難しいことでした。カンボジアは内戦などの影響で、医師不足・体制の脆弱さなど、医療の課題は山積みの状態です。そんな中で一人一人が薬をしっかり服用できているか、丁寧に指導をするは難しい状態でした。チャムロンさんは、いつしか飲み忘れが重なり、知らず知らずのうちに薬に耐性ができてしまっていたのです。

チャムロンさんの遺骨が、ほとんど骨組みしかない自宅へと帰ってきた日。ペー君が散歩に行こうと誘ってくれました。真っ白な花が田んぼのあぜ道を覆っています。1匹の子犬を連れ、ペー君はだまって花を眺めながら歩きます。私にはそれが、気持ちを落ち着けようと必死になっているように感じられました。

このとき私の中で、新たな葛藤が生まれていました。もしも自分が医者だったら、チャムロンさんを救えたかもしれない。もしも自分がNGO職員だったら、遺されたペー君に寄り添い続けることができるかもしれない。けれど自分はフォトジャーナリストとして、「伝える」ために日本に帰っていく。この仕事は一体、何なのだろうか。

がっくりと肩を落とす私に、ある地元のNGO職員の方がこんな声をかけてくれたのです。「菜津紀さん、これは役割分担なんです。私たちには彼らに寄り添い続けることができるかもしれません。けれどここで起きていることを、世界に発信する力はありません。だから1人でも多くの人に、ここで見たことを伝えてほしいのです」。

役割分担。そんな言葉にはっとさせられました。とにかく今、自分ができることを最後までしっかり全うしよう。そう思い直すことができたのです。

この連載の一番最初に、「写真で世界を変えることができるかどうか」という問いを、皆様に投げかけました。写真だけでそれを実現しようとするならば、きっと答えは「NO」です。けれど1枚の写真を通して様々な人々がつながり、手を取り合う人々の輪を広げることができるのならば、そこには大きな可能性が広がっています。

カンボジアでも東北の被災地でも、写真にできる役割は本当に一部です。けれど現場でふんばるNGOの方、奔走する地元の方々、遠くにいながら「何かをしたい」という気持ちを抱く方々がいるとき、写真が人々をつなげる窓となることができるはずです。希望へと進んでいくために、これからも写真を撮り続けていきたいと思います。これまで読んで頂けましたこと、改めまして皆様に感謝申し上げます。



「緑の村」の子どもたちは、いつも人々の支えです。
「緑の村」の子どもたちは、いつも人々の支えです。



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