グローバルキャリア塾 連載コラム

韓国雑記-異文化の海を泳ぐ (第3回)

第3回:心温まる習慣

NPO法人日韓コミュニケーション協会
理事長

木村 妙子

1998年ナレーター時代、韓国のスタジオで収録の為初渡韓し韓国に一目惚れ。以来仕事で日本と韓国を頻繁に行き来する事となる。1999年初頭から独学で韓国語を学び始め、同年8月休業して高麗大語学堂に短期留学。2004年KLPT(世界韓国語認証試験)日本開始の際設立された検定協会に入社。以後運営に奔走し2008年KLPTを引取りNPO法人日韓コミュニケーション協会設立。

(2010年11月15日掲載)

韓国には、バスや地下鉄に乗った時、座席に座っている人が、目の前で立っている見ず知らずの人の荷物を持ってくれるという習慣がある。立っている人が降りるまで、その人の荷物を自分の膝の上に置いて抱えていてくれるのだ。

この習慣は、語学堂の韓国語初級テキストにも掲載されているので、有名ではあるのだが、滅多に遭遇する事は無く、私自身、存在自体を忘れている状態で突如出くわしたという事が過去数回ある程度である。だが、その僅かばかりの経験を思い起こすと、これに出会う為に必要な、ある一定の要件が見えてくる。

その要件とは、まず前述したように、立っているからこそ荷物を持ってくれるので、その乗り物の座席に空席が無い状態である事は必須だ。空いている座席があれば座ればいいわけで、それでも座らないという事は、荷物を持つのに不自由がないと思われるのではないかという推察故である。

加えて1人で乗車している事が挙げられる。回りに何かを託す相手がいないと認識される必要があるのではないかという視点からである。更に大きいバッグを持っている事、そして立ち位置は座席の前である事は言うまでもない。一見簡単なようでいて、この要件を揃えるのはそう容易な事ではないのである。

一方荷物を持ってくれる側は、当然目上の方々、年配の方々のみとなる。何故当然かと言うと、儒教が根付いている韓国では、どんなに変貌を遂げようとも、目上を敬うという姿勢は崩れない。従って、若者は目上の方に席を譲り、混んでいる乗り物で座るという事はしないからである。因みに私は若者ではないが、グレーゾーンの容姿をしているらしいので、余程空いている車内でない限り座らない事にしている。

上記の要件と、尚且つこの座っている人の膝が空いているというすべての要件が揃った時、そしてこの風習を受け継いでいる人であった場合に、発動されるのではないかというのが私の考察である。そしてその発動の仕方が非常に面白い。座っている人が下から力強く、立っている人のバッグをいきなりグイッと引っ張るのだ。

「持ちましょうか」といった言葉をかけてくる事はない。終始無言であるのと、無愛想であるのが特徴である為、かつて在日コリアンの友人が、ソウルで初めてこの体験をした時に、ひったくりだと思って引っ張られるバッグを盗られまいと必死に抵抗したという笑い話もある。

日本で生まれ育って生活をしていると、親切は笑顔と優しい言葉でするものだという感覚に陥りがちだが、よく考えてみれば、見ず知らずの人間がニコニコ笑顔で近づいてきて、優しい言葉をかけた時こそ気をつけなければならないのであって、それを踏まえると、この親切の仕方は理に適っていると思えてならない。

殆ど見ることがなくなってしまったこの光景が、完全に消えていく日も遠くはないのであろうが、時代の移り変わりと共に、違った形でまた暖かい習慣が新たに生まれるのではないかと思っている。そしてその1つが「コラム2」に記したジェントルマンたちなのかもしれない。

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