グローバルキャリア塾 連載コラム

パレスチナ便り (第6回)

第6回:インターネットがつなぐパレスチナの家族

特定非営利活動法人 パレスチナ子どものキャンペーン
事務局長

田中 好子(たなか よしこ)

■特定非営利活動法人パレスチナ子どものキャンペーン事務局長。1986年の同キャンペーン設立に参加。パレスチナやレバノンの難民キャンプで、子どもの教育、保健、人権に関わる支援事業をコーディネート。国連パレスチナ問題NGO国際調整委員会委員、同アジア地域調整委員会委員を歴任。パレスチナのNGOはもとよりイスラエルの平和団体や各国のNGOとの関係が深い。 同キャンペーンは1996年に東京弁護士会人権賞を受ける。
翻訳書「イスラエル兵役拒否者からの手紙」(NHK出版)。


特定非営利活動法人 パレスチナ子どものキャンペーン

(2010年5月15日掲載)

パレスチナでも若者の関心事のひとつは携帯電話の新しい機種。少し前まで、アラブ世界でよく見る携帯電話は「ノキア」の地味なものでしたが、最近はカメラ付が増え、メール機能も充実し、TVを見られるのもあります。外見も派手になってきました。

アラブ世界では携帯電話が世代を超えて必須のアイテムです。インフラ整備が遅れたため固定電話の普及が進まず、より簡単なインフラで済む携帯ネットワークが普及しやすかったのが第一の理由です。それに輪をかけているのが、アラブ社会ではプライバシーがあまりないこと。未婚の若者は、男子でも一人暮らしをすることはほとんどありません。庶民の家では兄弟姉妹が多いから、個室を持っている若者もほとんどいないし、最近はイスラム色が強まっているから、男女が一緒に出歩いたり、一緒にお茶を飲むことは大学のキャンパスでも難しくなっています。そのため携帯電話やメールは、恋人や異性の友達との唯一のコミュニケーション手段なんです。

もうひとつ重要なのが、コミュニケーションが会話中心だということ。毎日顔を合わす家族や友達とでも何時間でも飽きることなくおしゃべりが続きますから、日本の家族はなんて静かなんだろうと思ってしまいます。こんなに仲の良いパレスチナ人の家族なのに、パレスチナでは職がないためどこの家でも誰かが出稼ぎや移民で世界中に散らばっています。
だから携帯が鳴れば、会議中だろうが、手術中だろうが「もしもし」が始まってしまうのです。というのも、家族からの電話は、重要な知らせかもしれないから。即刻書類を整えてビザの申請をしないと、故郷に戻れなくなってしまうのかもしれないし、検問所が閉まりそうだから、すぐに出発しなければならないのかもしれない。それどころか、難民キャンプが攻撃されて家族に犠牲が出たのかもしれない・・・。もっとも、多くの場合は幸いなことにそれほど深刻なテーマではないのですが。

しかし、国交がないと電話回線は繋がりません。だから、イスラエルとシリアやレバノンの間は電話が通じません。イスラエルの占領下にあるパレスチナ自治区も、インフラはイスラエルが支配しているのでレバノンやシリアとはつながりません。パレスチナにいる家族とシリアやレバノンに離れている家族は、面倒な第三国経由の通話をしていたものです。

しかし、電話と違ってインターネットは簡単に国境を越えられます。「Across the Border」というプロジェクトが少し前にありましたが、これは直接行き来ができないばかりか、電話もかけられないガザとレバノンにあるパレスチナ難民キャンプをインターネットでつなぐものでした。

最近発見した驚きは、友人の一族がその苗字をドメインにしていることです。ガザの有力な一族でしたが、戦争と封鎖によって多くのメンバーがガザを離れ、ほかのアラブ諸国や欧米に移住して行ったのです。その人たちがいまやネットだけで繋がっているのです。

100年以上前まで、中東地域には国境がなく、人々はかなり自由に行き来をしていました。ロバやラクダの背に揺られた旅は、その後鉄道の旅に変わりました。しかし、ヨーロッパからアフリカに繋がっていた線路は「アラビアのロレンス」の手で、またイスラエルの建国とパレスチナの占領によって破壊され、ごく一部を除いて鉄道は途絶えてしまいました。

中東全域が平和になりいま断絶している鉄道が復活するのには、まだしばらく時間がかかりそうですが、それまでの間、国境を越えて人々をつなぎ情報を発信する手段になるのはどうやらインターネットのようです。しかし残念ながら、PCはまだ高嶺の花。レバノンなどではパレスチナ人(=難民)というだけで、ローンを組むことも難しい現実があります。

それだからこそ封鎖されたガザや、疎外された難民キャンプの子どもたちに、PCの使い方やネットの使い方を知って、外の世界と繋がり、交信できるようになってもらいたい。それが彼らにとってはひとつの生きる手段となるでしょう。

「教育支援」の新しい形態として、ガザのアトファルナろう学校やナワールセンターでも、またレバノンのパレスチナ難民キャンプでも、子どもたちがPCにアクセスしたり、その遣い方に慣れるようなプログラムを取り入れています。

詳しくは当会のホームページhttp://ccp-ngo.jp/で。

ガザにて

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