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コラム「行けばわかるさ」第8回

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第八回:「やさしいサンドバッグ」が教えてくれたこと

丹勇貴

扶桑法務事務所

丹 勇貴(たん ゆたか)


大学卒業後、特殊法人職員、翻訳・通訳業などをしながら、週4日はサッカークラブの夜間練習に参加するという“夢追い人生活”を経験。夢追い終了後、商社勤務、レストラン経営等を経て現職。著書「就職は自分の“売り”で勝負しろ」


先日、私の知人(妻の親友)Tさんが42歳の若さで急逝しました。
彼女は「目標は黒木瞳」と言っていたとおり、見た目は実年齢よりも8歳〜10歳は若く見られる、おっとりした美人で、男性にもよくモテるタイプでした。新卒で就職した自治体の新人研修では、いきなり「付き合っている人、いますか?」と同期の男性に告白され、その場で「はい」の一言で、そいつを秒殺したという伝説は、彼女を知る人の間では、今でも語り継がれています。

Tさんは大学卒業後に就職した自治体で約2年間勤務した後、結婚・出産を機に辞め、それから約15年もの間、専業主婦をしていました。しかし、40歳を目前に、一定の収入を得る必要性が生じたため、正社員として働く道を模索すべく、ハローワークに相談に行きました。いわゆる「実務経験」が2年しかない30代後半の女性が、正社員として働く就職口を見つけることは容易ではありませんでしたが、就職相談員の「この世には、あなたの知らない職種はいくらでもある。諦めずに探せば、必ず正社員になれる」という言葉にも励まされ、粘り強く就職活動をした結果、某家電メーカーのお客様相談センターの相談員として、見事、正規雇用を勝ち取りました。

一般的に「お客様相談センター」というと、お客からのクレーム処理や商品の取扱説明が主な仕事で、ともすればクレーマーから“サンドバッグ”にされる「受動的」な職場のように思われがちです。私自身、「お客様相談センター」の任務は、すでに商品を買ってしまった人を相手にしているので、直接的には売上増につながらない、コストセンター的な任務というイメージを持っていましたが、実際は「お客様相談センター」こそが「営業の基本」であることを、営業経験はほとんど皆無に等しいTさんのあるエピソードで教えられました。

Tさんは、お客からのクレームに対しては懇切丁寧に対応し、商品取扱に関する問い合わせについては、電話口を通じて、商品の使い方を手取り足取り“コーチング”したそうです。今日のように、効率が優先される世の中にあって、Tさんのように一人ひとりのお客に時間をかけていたのでは、業務効率が落ちるとの見方もあり、実際、彼女の同僚相談員の中には、クレームや問い合わせを短時間でさばくことを特技とし、それが会社に評価されている人もいるようでした。

しかし、元来おっとり型で性格の優しいTさんにそのような芸当が出来るわけもなく、あくまでマイペースで電話相談業務に従事していた彼女でしたが、そのうちTさんを指名して、相談の電話をかけてくるお客が出てくるようになりました。たしかに、クレームや問い合わせをするお客側としては、自分のために時間を割いて、じっくりと話を聞いてくれる相談員はありがたい存在でしょう。

Tさんがマイペースを堅持した理由は、彼女自身の性格以外に「高い自社製品を買ってくれたお客様が、その製品を買い換えるときも、自社製品を選んでくれるようにしたいから。また、お客様からその知り合いにも自社製品の良さを伝えて欲しいから。」といった信念を持っていたからでした。

一見、優秀な社員の出来すぎた話のように聞こえるかも知れませんが、元来、専業主婦志望だったTさんには「会社に評価されたい」といったスケベ心はありませんでした。私生活でもマイペースで「黒木瞳のように歳をとる」ことを目標としていた彼女は、仕事でもマイペースを維持しつつ、当たり前のアフターサービスを提供していたら、いつの間にかファンが出来ていたのでしょう。

アメリカ型の成果主義が導入されて久しい日本社会ですが、「多く売った奴が一番偉い」といった風潮は、そう長くは続かないような気がします。そんなことを暗示しつつ、これ以上、歳をとることもなく、美しいまま天国に召されたTさんに合掌。



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