Go Griz! モンタナ大学から見た米地方大学留学のすすめ
第2回:米国とアジアの関係強化を目指したマンスフィールド大使とモンタナ大学
モンタナ大学マンスフィールドセンター
特任研究員、国際交流コーディネーター・通訳
李 娜兀(り・なおる)
韓国ソウル出身。子ども時代を米国で過ごした後、日米中3カ国に留学。日韓米中4カ国の学生交流の手助けを、さまざまな形で続けている。これまでに東京大、早稲田大、韓国東西大などで国際交流業務を担当した。2019年から約2年間、ニューズウィーク日本版でコラムを連載。現在は北京在住
(2022年1月26日掲載)
「米国と太平洋をはさんで向かい合う国々は、いつか湖の周りの隣人のように、共通の利益や目標を分かち合い、密接に結びつくコミュニティになるだろう」
モンタナ大学出身で、米上院民主党のリーダーとしてワシントンで大きな影響力を持ち、上院議員引退後は約12年間もの長きにわたって米国の駐日大使として活躍したマイク・マンスフィールド氏が1980年に残した言葉です。
マンスフィールド大使と中曽根康弘首相(いずれも当時、モンタナ大学提供)
それから約40年、対立や競争が強まっている面もありますが、太平洋を取り囲む米国、日本、韓国、中国などの国々が、ますます密接な結びつきを強めているのは間違いありません。モンタナ大学にあるモーリーン&マイク・マンスフィールドセンターは、米国と東アジアの結びつきの強まりを予測し、特に日本と米国との関係強化に力を尽くしたマンスフィールド氏の思いを今も受け継いでいます。
モンタナ大学キャンパスのマンスフィールドセンターが入っている図書館の脇には、マンスフィールド氏とその妻、モーリーンさんの銅像が建っています。2人はおしどり夫婦で有名だったのですが、大物政治家だったマイクだけでなく、モーリーンも共に銅像となっているのには理由があります。
実はマンスフィールド氏は中学2年生に相当する8年生で学校をドロップアウトし、モーリーンさんと出会った当時、銅鉱山で働いていました。学校教師だったモーリーンさんはマンスフィールド氏に対して熱心に大学教育を受けるよう勧めました。モーリーンさんの助けを受けて高校課程の勉強を終えたマンスフィールド氏は、一念発起して28歳でモンタナ大学に入学します。その後、歴史で学位を取り、モンタナ大学の助教授として働き出したマンスフィールド氏に、政治の道に進むよう励ましたのもモーリーンさんでした。
モーリーンさんなしに大政治家、マイク・マンスフィールドは誕生しませんでした。センターの正式名称が「モーリーン&マイク・マンスフィールドセンター」と、妻の名前が前に来ているのも、モーリーンさんが果たした役割の大きさのためでしょう。
マンスフィールド図書館と大学ホールの間にあるマンスフィールド夫妻の銅像(モンタナ大学提供)
私が初めて訪問研究員として訪れた時はほぼ18年前でした。マンスフィールドセンターは、モンタナ大学の図書館の正門から入り左に階段を上った右側にあります。毎朝出勤するとセンターでブラックコーヒーを飲み、午前中いっぱいは図書館内のマンスフィールド蔵書コーナーで過ごすのが日課でした。マンスフィールド氏が残した記録やメモに囲まれながら、鉱山労働者から大学教授、そしてワシントンDCで最も権力のあるポストの一つ、民主党上院院内総務へと駆け上がった人生のダイナミックさを、実感できたという記憶があります。
マンスフィールド図書館(モンタナ大学提供)
ワシントンポスト紙の著名な外交専門記者、ドン・オーバードーファー氏は、マンスフィールド氏が亡くなる直前の3年間、30回を超えるインタビューを経て、伝記「Senator Mansfield」(邦題は「マイク・マンスフィールド―米国の良心を守った政治家の生涯)を執筆しました。その中でオーバードーファー氏は、マンスフィールド氏のことを「20世紀の米国政治・外交の歴史の中で、最も目立ち、かつ賞賛された政治家であったにもかかわらず、根っから謙遜な人だった」と振り返っています。
マンスフィールド氏に惚れ込んだのはジャーナリストだけではありません。現職の米大統領、バイデン氏は、2021年4月に訪米した当時の管義偉首相に対して「マイクは私の心の師匠だった。私が妻と娘を(事故で)亡くした後も、ここでは説明できないほどの形で助けてくれた」とマンスフィールド氏の思い出を語りました。
いま、マンスフィールドセンターは多くの国際的な交流活動を実施しています。中でも国際的なリーダー養成に注目し、色々なプログラムをやっています。モンタナ大学の外国人向け英語プログラムを担当しているELIと連携したものもあり、日本からの留学生が参加しやすくなっています。
マンスフィールド氏の後輩として、日本と米国、そして他の東アジアの国々とが共通の利益や目標を分かち合う未来について思いを深めていてはどうでしょうか。
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