所変われば品変わる (第16回)
第16回:アイリッシュ・ダンス
Endeavour Japan エンデバー・ジャパン
主宰
川内 和子(かわうち かずこ)
東京都出身。早稲田大学卒業。大学3年次に米国国際線航空会社のフライト・アテンダントに最年少で採用され、米国でのトレーニング後、米国に居住し世界路線で世界をめぐる。大学卒業後は、米国最大手銀行、米国大手投資銀行等を経て2008年春に、世界の知識を広め・知識を共有することをめざすEndeavour Japan エンデバー・ジャパンを創設。
(2010年2月15日掲載)
2月3日に開催された英語セミナー「アイルランド - 技術革新の島」では、講師のアイルランド政府商務庁日本代表のアン・ラニガンさんが、楽しく分かりやすいお話で、アイルランドの歴史やウィスキー(whiskey -- アイルランド製のウィスキーの綴りにはeが入る)を含む数々の発明、また現在の同国の経済事情などについて詳しくお話してくれました。
アンさんによると、アイルランド人気質は、よく学び・働き・よく笑う、だそうです。また、日本がアイルランドから輸入している貿易品のリストの中には、コンタクトレンズのように、多くの日本人が使っている品がたくさんあり、参加者から「えぇ、そうだったの・・・!」という驚きの声が大きくあがりました。
指紋を記録し照合する機器も、実はアイルランド人の発明など、目からうろこが落ちるような、これまであまり知らなかった現代アイルランドの革新的な技術水準の高さを学ぶことができました。そして、日本でインターネットを使いネイティブの先生から英会話を習う時、先生は実はアイルランドに居る場合が多いこと等、たくさんの知識を得ることができたセミナーでした。
セミナー後には、会場近くのJR田町駅ビルの中にあるアイリッシュ・パブに場所を移し、交流会を開催しました。アイリッシュ・ビールを飲みながら盛り上がった話題の中に「アイリッシュ・ダンス」があり、参加者のアイルランドの人たちから、「所変われば品変わる」の諺通り、次のようなお話を聞くことができましたので、皆さんへご紹介したいと思います。
私たちは、ダンスというと手足や腰を中心に体全体を使って感情や意思の伝達や表現するものと認識しているので、多分すぐに思い浮かぶのは、フラダンス、フラメンコ、タンゴそれに当然日本の盆踊りだと思います。日本の能や歌舞伎、中国の京劇などアジアの国々で舞われるダンスの特徴は、細部にわたり動きが洗練されていて、ひとつの動きが何かを象徴するのだそうです。ところが、ヨーロッパの国々のダンスは足の動きに特徴があるようです。そういえばフォークダンスやソシアルダンスなど、手も上半身も動かしますが特に足の動きが基本になっていますよね。
手や腕を動かさないダンスとは
ところが、「アイリッシュ・ダンス」は、手や腕の動きが無く上半身を動かさずに、足だけを踏みならすダンスだそうです。もちろん「アイリッシュ・ダンス」には歴史的にいくつかの種類があるようで、この足だけのダンスは「ステップダンス」と呼ばれ、私たちが現在「アイリッシュ・ダンス」と呼んでいるものとのこと。
これについて参加者の一人で、日本に10年住んでいるというアイルランド出身のジェームスさんが、次のような説明をしてくれました。
*****「このステップダンス は、今から400年以上前に、僕たちの国アイルランドがイギリスの支配下にあって、母国語のゲール語ではなく英語を使うよう強制され、そのうえ自分たちの民族楽器を使って奏でる伝統的な音楽までも禁止されてしまった時に出来上がったものなのです。どんなに禁止されても、僕たちの祖先は伝統的な音楽やそのリズムを、窓の外から監視するイギリスの兵隊に見えぬように、手や腕の動きをなくして足だけを踏みならすことで、各家族の中でひそかに代々伝えてきたのです。」
「タップダンスというと、『アイリッシュ・ダンス』をよく分かってもらえるかもしれませんね。19世紀に入ってやっとイギリスの支配から解放されると、これまで秘密に各家庭の中で伝えられてきた『アイリッシュ・ダンス』は爆発的な広がりをみせたのです。僕の祖父母も両親も皆上手に踊りますよ。僕はあまりリズム感がないのでうまくないけれど・・・。」
「そして、20世紀初めには、アメリカに移住したアイルランド移民により、アイルランド国内だけでなく、アメリカやその後いろいろな国々に知れ渡り、普及していったんです。日本でも、この『アイリッシュ・ダンス』を習って踊る人たちがたくさんいらっしゃるそうですね。こんな踊りの背後にある歴史と、伝統・文化の継承を支えてきたという僕たちの民族の誇りを理解して、見たり踊っていただくと嬉しいです!」
*****映画タイタニックの中でも踊られたアイリッシュ・ダンス
すると、参加者のひとりの恭子さんが「そういえば、高校生の頃見た『タイタニック』という映画の中で、アメリカへ向かう貧しいアイルランドの移民役のディカプリオが、一番安い3等客室の中でタップダンスを踊っていました。その時は何でタップダンスを踊るのか良く分からなかったけれど、なぜか涙がでてきたことを思い出します。哀愁を感じたのにはそんな訳があったのですか」とつぶやいていました。
毎回セミナーに出席するごとに、その国に行きたくなってしまう50歳代の男性参加者が「ぜひ今度はアイルランドに行って、おいしいウィスキーを飲みたい!アイリッシュ・ダンスも習うぞ。でもこの頃は足腰が弱くなってきているので足が動くかなぁ~」と大きな声で言った時には、参加者から大きな笑い声がおこりました。
起業家精神に富み、多くの世界的発明を生み出しているアイルランド人ならではの「アイリッシュ・ダンス」の成り立ちでした。今回も多くのことを楽しみながら学ぶことができたセミナーでした。皆さんも是非次回のエンデバー・ジャパンの英語セミナーにご出席になり、視野を一層広げられてはいかがでしょうか。ご参加をお待ちしています。
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