ブータンの空の下から (第4回)
第4回:生きていると思える瞬間
片山 理絵
ハワイ大学東アジア言語・文学部修士課程卒。在学中にブータン王国出身の夫と出会い、一年半の遠距離恋愛を得て、2001年4月に結婚。知り合った時は、ブータン王国という国が存在する事すら知らなかったが、12年の在ブ生活を得て、ブータンという国の歴史と文化の奥深さを知り、次第にはまりつつある。現在3人の子供を育てながら、夫の家族が経営するペルキルスクールの経営に携わっている。
■ペルキルスクール http://www.pelkhil.edu.bt
2010年に開校した中高一貫の私立学校。2013年からプレ・プライマリーのクラスもオープン。現在は450名の生徒が在校する。
(2013年5月15日掲載)
2012年の統計によると、日本の全国の自殺者は2万7766人で15年ぶりに3万人を下回ったらしい。それでも1年間で2万7千人という数の自殺者を出す社会は異様だ。
ブータンの人と日本の自殺者問題を話していると、「どうして経済的に発展している国なのに自ら命を絶たなければならないのか?」と全く理解できない様子。それはそうだろうな、としみじみ思う。それはブータンと日本の置かれている環境が余りにも違い、それに基づく価値観も全く異なるからである。
日本の主たる自殺の原因は「健康」と「仕事」。どうしてそれが自殺の原因になるのか、読者の皆さんが日本人であればある程度理解出来るからそこは省略するとして、ブータンにおいて「健康」が原因で自殺をする人は国内ニュースでも今まで聞いた事が殆どない。
最近はこちらでも「癌」で亡くなる方を聞く様になったが、取り敢えず西洋医学でもブータンの伝統医学でも治療方法が無いと分かると、今度は「死」に向けて準備を始める。高僧などに家に来てもらい死後についての話しをしてもらったり、自分で静かに念仏を唱えたり、瞑想をしたり、その瞬間が来るのをひたすら待つ。
ブータンの仏教では輪廻転生を信じているので、49日後には必ず現世に帰って来られると信じている。どういった形で帰ってこられるかはその人の現世での行い次第なので、自分の人生を振り返り、いろいろと想いを廻らせながら、家族や親戚、友人達に感謝の意を伝えながら、静かにその時を待つのである。ブータンにおいて「自殺」をするという事は、与えられた運命を受け入れるのではなく、それに背くという考え方なので、あまり好まれない。
そして「仕事」。ブータン人も同じ人間なので「仕事」で悩むという事ももちろんある。日本人と比べるとその頻度は物凄く少ない様にも思われるが、それはブータン人が「仕事」を人生に置いて一番重要なものと思っていないからである。
日本では「勤労」は権利と並んで置かれた義務規定という事が憲法に記されている。ブータンの憲法においては、ある程度以上の収入がある国民は税金を払う義務はあるが、「勤労」自体は義務とされていない。働かなくて良いという選択肢があれば、ブータンの殆どの人が働かないと思う(笑)。「仕事が生きがい」という日本人の考え方ははっきり言ってブータンには存在しないに近いと思う。
仕事が無い人たちをその家族や親戚たちが養っている場合が殆どなので、「仕事が無い」からと言って後ろめたい気持ちになったりはしない。従って仕事が理由で「自殺」を考える程悩む事も無い。もし誰かが仕事における人間関係で悩んでいて、いわゆる動けない状態になっていたら、家族や友人達は皆異口同音に「そんな会社辞めなさい」と言うだろう。 制度的に保障制度などはあまり整っていないブータンだが、もし明日会社を辞めても家族/親戚、友人の誰かが助けてくれるので何とかなるのである。
話しは変わるが、ブータン唯一の国際空港があるパロという県に「チュンブ寺」というお寺がある。そのお寺の仏像「ドルジ・パマ」は空中に浮いていると言われている。それを是非一緒に見に行こう、と友達から誘われ、2月上旬に行ってきた。
首都ティンプーから車で一時間ちょっと、途中の放牧地の草むらに車を止め歩き始めた。歩いて1時間ぐらいで雪が舞い始めた。2時間が過ぎたぐらいからボタン雪に変わり、周りの景色は緑から白へと変わり雪が積もり始めた。
川沿いに歩いていたのだが、その川も氷柱が幾つも見えるほど凍っていて、雪中お寺が現れた時には、安堵するよりも、まだまだあんな高い所にあるのか、という悲嘆した気持ちになり、足も上がらなくなった。雪がシンシンと降る中、山上に見えるお寺まで最後は両手も使い這う様に崖を上がった。
標高3500メートル、何とかお寺まで辿りついた私たちを待っていたのは、温かい蒔ストーブとそのお寺を世話している二人のお坊様が作ってくれた紅茶だった。
倒れる様に部屋(そこはお坊様たちが寝泊りする場所)に入り、その紅茶を飲んだ時「あ~、私は生きている。」と心から思った。そしてしばらくして雪は止み、光が射し始め、周りが明るくなり始めると、360度見渡せる山々に自分が「天上」にいる様に思えた。鳥の鳴き声以外何も聞こえない空間。天がこんなに近くて、美しい。そしてそこに私は生きている。
人の命は自然と同じくらい大切で美しい。忙しい時間の中では度々人はその価値を見失いがちになる。そんな時は一度勇気を持ってその場から離れたら良い。自分のいつもの日常とは全くかけ離れた場にいると、何かしらの気づきに出会えるかも知れない。
追伸:ちなみに私が訪れたお寺の仏像は、信じられないかも知れませんが空中に浮いていました(正確に言うと床に着いていない)。少し人生に行き詰ったと思ったら、一度ブータンにこの仏像を見に来たら如何ですか?きっと何かしらのヒントを感じられると思いますよ。(ちなみに体力もかなり要ります!)
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