ブータンの空の下から (第8回)
第8回:ブータンの食生活 その1
片山 理絵
ハワイ大学東アジア言語・文学部修士課程卒。在学中にブータン王国出身の夫と出会い、一年半の遠距離恋愛を得て、2001年4月に結婚。知り合った時は、ブータン王国という国が存在する事すら知らなかったが、12年の在ブ生活を得て、ブータンという国の歴史と文化の奥深さを知り、次第にはまりつつある。現在3人の子供を育てながら、夫の家族が経営するペルキルスクールの経営に携わっている。
■ペルキルスクール http://www.pelkhil.edu.bt
2010年に開校した中高一貫の私立学校。2013年からプレ・プライマリーのクラスもオープン。現在は450名の生徒が在校する。
(2013年12月1日掲載)
▲ブータンの秋の風物詩とえいば、赤唐辛子!
さて今回はリクエストにお答えして、ブータンの食生活について少し触れて見たいと思う。
10月と11月はブータンらしい光景があちこちで見られる特別な月である。それは何かというと、、、赤唐辛子を屋根に広げて乾燥させている光景である。この月になると各家々の屋根にその家族が食する一年分の赤唐辛子が並ぶ。唐辛子はブータン料理にとって実は無くてはならないものであり、言ってみれば、唐辛子抜きの料理はブータン料理ではないのである!
さてこの乾燥赤唐辛子をどう料理するかと言うと、牛肉や豚肉と煮込むのが一般的な料理の仕方である。味付けは?基本的には油と塩だけ。これに野菜(例えば青菜、だいこん、豆類等)を入れて煮込む場合もある。忘れてならないのが、しょうがとにんにく。隠し味である。基本的にブータン料理はシンプルである。しかしシンプルだからこそ料理人の腕の差が出てしまうのである。全く同じ材料なのに味に差が出る。それは何故か、、、分からない。(笑)ブータンでは「あの家のパクシャ・パ(豚肉の煮込み料理)はどこよりもいける。」という評判が必ず親戚や友達間にあるのである。
▲山間の棚田でお米が作られる
ブータンでは山間部の棚田で多くのお米が作られており、農家は家族(親戚)が食べる以上の収穫高が基本的に無い。ブータン米が市場で販売されていても、かなりの高値になっていて、輸入されたインド米の1.5倍から2倍の値がする。国民の60%近くが農業に携わっているブータンであるが、国民の半分は輸入米を食するという状態が続いている。自家米がある農家でも、それを市場で売って、自分達はインド米を食べる方が現金収入となるので、そういう農家が増えてきているのも事実である。
さて話は又唐辛子に戻って、今度は青唐辛子のお話。このブータン産青唐辛子は、最初に食すると辛いだけで終わるのだが、その味に慣れてくると、だんだんこの辛さの中に甘味があるという事に気づき始め、やみつきになってくる。このレベルに到達した時に気をつけなければならないのが、唐辛子の食べ過ぎである。美味しいので食べ続けていると、100%お腹をこわす。舌は慣れてもやはり胃は別という事だ。この青唐辛子、ブータンの人は料理に使用するだけではなく、塩をつけて、生でもガシガシとやる。普通のメニューに物足りないと、「ちょっと唐辛子を持って来てちょうだい」とお客は注文し、お店は塩と一緒に青唐辛子を数本持って来る。
この青唐辛子、実は収穫する場所によってブランドがある。初春の頃に市場に出て来るブータンの東端タシヤンツェ県で採れるタシヤンツェブランド。これは最も値が高いものであるが、ブータンの人は競って手に入れようとする。ブータンでは温室育ちの唐辛子がまだ無い為、冬にはインド産青唐辛子を食する場合が多くこのタシヤンツェ産が出てくると、待ちきれない思いで購入するのである。
このタシヤンツェ産青唐辛子。みかけも立派で、長く輝きがある。長いのになると20cmを超えるものがある。タシヤンツェ産の種で他県でこれを栽培しようとしても、これがなかなか育たないのである。人にこだわりがある様に、唐辛子も土を選ぶのだ。
グローバル化が進んでくると、季節に関係無く野菜がふんだんに手に入る様になる。消費者としてはとても有難い事なのだが、その一時期しか入らないものに対する待ち遠しい思いや有難みは自然と薄れる。
ブータンにもグローバル化の影響により、いつかタシヤンツェ産の青唐辛子が一年中手に入る日がやってくるのだろうか?
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