グローバルキャリア塾 連載コラム

ブータンの空の下から (第9回)

第9回:ブータンの食生活 その2

ペルキルスクール

片山 理絵

ハワイ大学東アジア言語・文学部修士課程卒。在学中にブータン王国出身の夫と出会い、一年半の遠距離恋愛を得て、2001年4月に結婚。知り合った時は、ブータン王国という国が存在する事すら知らなかったが、12年の在ブ生活を得て、ブータンという国の歴史と文化の奥深さを知り、次第にはまりつつある。現在3人の子供を育てながら、夫の家族が経営するペルキルスクールの経営に携わっている。

■ペルキルスクール http://www.pelkhil.edu.bt
2010年に開校した中高一貫の私立学校。2013年からプレ・プライマリーのクラスもオープン。現在は450名の生徒が在校する。

ペルキルスクール

(2014年2月1日掲載)

ヤク
▲ヤクの足は半日かけて切り分け、骨まで無駄なく使う

前回のコラムでは、ブータンの食生活になくてはならない「唐辛子」を紹介した。今回はヒマラヤ山脈近辺にしか生息しないヤクという動物とブータンの人々との関わりについて紹介したい。

私がブータンに来て一番にびっくりしたのが「肉屋」である。スーパーマーケットで部位毎に切られ、きれいにパックされているお肉しか購入した事の無い私にとって、その光景は衝撃的であった。壁沿いに牛の足が幾つも吊り下げられ、締められ毛を毟られた鶏が、丸ごと鶏肉としてドーンと幾つも台に並べられている。豚肉においては、頭部も同じ台に並べれている時がたまにある。これ以上描写すると気分が悪くなる読者がいるかも知れないのでここで止めておくが、先進国しか住んだ事の無い私にとっては、この光景だけでブータンに住む気持ちが萎えてしまったのを覚えている。それから12年、2013年のブータンの肉屋は、何の変化も無く未だに同じ光景である。

ここ数年インドから輸入された冷凍のお肉が手に入る様になったのだが、それが一般庶民には全く手が出ないお値段なのである。ブータンの肉屋で「薄切り肉」が販売される様になるのは一体いつだろう、とたまに溜息をつく私である。

さてここからが本題。ブータンにおいて秋から冬にかけてしか手に入らないお肉、それがヤクという高地にしか住んでいない動物のお肉だ。ヤクは基本的に標高3000メートル以上の高地にしか住めず、ブータンの牧畜民が飼っている。この動物ヤクの毛を粗く編んだものはテント代わりにもなり、夏の放牧中牧畜民達はそのテントで生活している。このヤクのミルクからバターやチーズも作られており、このヤクの発酵チーズ(匂いがかなりきつい)をブータンのチーズを用いた煮込み料理に入れると、味がまろやかになり、やみつきになる。所謂隠し味であるが、これはなかなか手に入りづらくなってきている。

このヤクが屠殺される前には一頭ずつきれいに着飾られ、お坊様がヤクに対して感謝の祈りを捧げてから屠殺される。この儀式に手間と時間をかけるブータン人。それだけでブータン人にとって、ヤクは大切な生き物であると分かる。先進国においての利益の為だけにホルモン注射を打ち続け、早く成長させ、身動きも取れない所で飼われ、そして殺されていく家畜とは全く扱いが違うのである。肉を食べるという事は「生命を頂く」という事をブータンでは改めて思う。

さてこのヤク肉。うちでは足一本という単位で購入し、これを半日かけて必要サイズに切り分け、干し肉にしたり、冷凍にしたりする。ヤクの肉を食べると、インドから輸入されてくる牛肉が全く食べられなくなる。舌に残る食感が全く違うのである。骨も一口大サイズに切り、これを乾燥させて、料理のスープに使う。これは格別に味が良く、料理し終わった骨をうちの犬達がガシガシとやる。最後の最後まで無駄が無い。

輪廻転生を強く信じるブータン人は来世も人間に生まれ変われる事を願う。屠殺されるヤクに対しては、「来世は人間に生まれ変われる様に」と願ってやる。そして人間も現世で「徳を積む」事によって初めて人間として生まれ変われるという教えを説く。

世の中は不公平に出来ている。それは前世の行為がそのまま現世となっている、と多くのブータン人は信じる。当たり前の様に人間が食している肉や魚、彼らの生命を頂いて私達は生きているという事を考えた時、やはり人間は彼ら以上にがんばらなければならないのではないか、と思う。

日本のスーパーマーケットでは感じられない生命感。皆さんも一度ブータンに来て、ヤクの肉を食してみませんか?

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