違うから面白い世界 (第5回)
第5回:「夫」まで共有しちゃう韓国語
Addictalk
代表
安 榮智
2004年、韓国建国大学を卒業後、文部科学省の国費留学生として東京大学大学院へ留学。2007年より見本市開催会社にて、イ・ビョンホンをはじめ、キム・スンウ、チ・ジニなど韓流スターのイベント通訳を経験。以後、フリーの通訳者、韓国語教師として活躍。2011年10月、代表事業主として韓国語オンラインスクールAddictalkを設立。自身がネイティブ並みに日本語を話せるようになった経験を活かして、楽しく効果的に学べる韓国語レッスンを開発・提供している。
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(2012年3月15日掲載)
言葉にはその国の文化や国民性が如実に表れている。これは言語学の分野においても大きなテーマであり、それぞれの国の文化や言葉の違いを見つけ、その理由や背景を考えるのは私の密かな楽しみでもある。今回は、韓国語の「우리」この言葉の使い方から見えてくる韓国人の物事の捉え方、考え方について紹介したい。
韓国語にたくさん出てくる表現に「우리(私たち、我々)」という言葉がある。「우리 나라(我が国)」、「우리 학교(我が校)」、「우리 선생님(我々の先生)」、「우리 동네(我が町)」…
「우리(私たち)」という言葉は「話し手を含む複数の人」という意味の一人称代名詞である。国や学校・先生・町は、自分だけのものではなく皆のものなので、「우리(私たち)」と表現するわけだ。理由を考えれば、この一人称代名詞の使い方は非常に自然で、そのまま日本語に訳しても何ら違和感はない。
しかし、ここで英語と比べてみると、違いが顕著に現れる。英語では、my country, my school, my townといった表現が一般的である。つまり、皆のものであるにも拘らず、「私たちの」ではなく「私の」がより自然に使われているのだ。こうしてみると、日本語と韓国語は英語に比べ、個人より集団を主語にすることを好むと言える。
では次に、こんな表現を見てみよう。
「우리 엄마(お母さん)」、「우리 할머니(お婆さん)、「우리 동생(弟/妹)」、「우리 딸(娘)」、「우리 아들(息子)」…
韓国語では友達に対し、自分の母親のことを表す際に「우리(私たちの)」を使う。ここで日本語との違いが出てくる。日本語では「私の母」が最も自然な言い方である。それもそのはず、母親は皆のものではないので、「私の」でいいのだ。「私たちの母」が容認されるのは、兄弟の存在を含めて母を紹介する時くらいで、通常は「私の母」と表現する。一方、韓国語では「내 엄마」より「우리 엄마」の方が圧倒的に多く使われる。自分のお婆さん、弟/妹、娘、息子を表す時も同様に、前に「우리」をつける。中でも一番不思議な表現は、「우리 남편」。日本語に訳すと「私たちの夫」となる。「夫」というのは一夫多妻制の国でない限り、一人のもので、共有できないものである。このように明らかに自分一人のものである名詞にまで「우리」という言葉を使うことを鑑みると、韓国人はよっぽどこの「우리」が好きなのだと思う。
私が思うに、その理由の一つとして挙げられるのが、強い共同体意識である。個人よりは私たちという集団を重要視し、何かあったら皆で助け合うことで自分たちのグループを守っていこうという精神。その文化と意識が言葉に溶け込み、「우리」が多用されるようになったのではないかと思う。「우리 남편(私たちの夫)」のように他の言語の感覚では理解不能な表現もあるが、この「우리」はどこか心強さ、温かい心が感じられて、韓国人としては好きな表現の一つである。
個人を重視する西洋と、集団を重視する東洋。韓国語と日本語には、共通して「集団」の概念が色濃く現れている。上に述べたような細かい違いはあるものの、言語に「自分だけのものではなく、皆のものですよ」という意識を盛り込むのは、東洋特有のものだと言える。日本人が韓国語を学びやすい、また韓国人が日本語を学びやすい理由の一つは、二言語間にこういった共通の概念が多く存在し、お互いに抵抗なく文化的理解を深められるからなのかもしれない。
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