宮永コンピテント英語塾 (第6回)
第六回:ボストンの日本料理店で”Thank you!”と言ったら
宮永コンピテント英語塾
宮永國子(みやなが くにこ)
宮永Competent英語塾 塾長、人類学博士。国際基督教大学大学院人類学教授、多摩大学グローバルスタディーズ学部創設学部長を経て、現在ハーバード大学研究員。
(2008年8月15日掲載)
ボストンの日本料理店で”Thank you!”と言ったら
ドアの“Thank you.”でかなり経験をつんだM男さんが、その後日本料理店に行ったとき、また別の経験をしました。
日本人と思われるウエイトレスがお茶を出してくれたとき、M男さんは、
"Thank you."
と言いました。英語が自然に口から出たのです。ボストンでちょっとした英語表現を、日本人同士で使っても、M男さんには不自然ではなくなっていたのです。
ところが、ウエイトレスは、返事もせずに黙っています。それから彼女は、レジのそばに戻ると、仲間のウエイトレスと立ち話をはじめました。もちろん日本語です。客を無視したような振る舞いから、M男さんには、二人とも新人のように見えました。
「お茶出したら、“Thank you”とかって、 言われちゃってぇ、返事できなかったよー。そういう時って普通何て答えるの?」
「簡単だよ。お茶出したくらいで、いちいち御礼すんなよぉ。言うしかないじゃん。(笑い)」
M男さんは、立ち聞きみたいになってしまったことも忘れて、一瞬かっとなりました。このあたり、体育会系は気が荒いのだそうです。
でも、M男さんは考え直し、気を取り直しました。考えてみれば、日本にいたときにも、料理店では、お茶くらいで客も店員も、何も言いません。少なくともM男さんの経験ではそうなのです。軽く「どーも」と言うことはありますが、店員がいつもなんと答えているかどうしても思い出せません。当たり前すぎて、考えたこともないのです。
かっとしたせいか、M男さんの頭は急に廻りだします。普段考えたこともないような思いつきで、頭がいっぱいになりました。
・・・「社会言語学はフィールドスタディを掲げているわりに、こういう問題に対してあまりにも無力だな。『どの年齢層が、どの地域で、何パーセントの確率でどう発話したか』という統計はたくさんあるけれど、発話に至る過程や、背景、目的の分析がない。これは言語学や社会学の問題ではなく、グループの外で「人間」として生きていく上での深く、そして切実な問題だ」・・・
M男さんはなるほどと、自分の考えに感心して、納得したような気分になりました。
自分の文化から出ると、心が自由にブラウズを始めます。忙しい社会人には、こういう時間のためなら、ひとりだけの観光旅行に、ぶらりと出かけてみるのも良いかもしれません。実際M男さんは、このあたりから、自分自身を一人の「人間」として、考え始めたのです。
食事を終えるころにはM男さんは、なんとなく新しい気分になっていました。
店を出るときにちょうど出口のところで、赤ちゃんを抱えたアメリカ人の女性が入ってこようとしたので、ドアを開けてあげました。
すると女性はM男さんに
"Thank you."
とごく自然に言ったのです。アメリカでは当たり前のほほえましい風景です。
ところがM男さんはここで、とっさに何も言えませんでした。頭では発話していた、とM男さんは思うのですが、今度は言葉が出てこなかったのです。
自然な行為とは、単なる「慣れ」の問題なのでしょうか、それとももっと深いものが、そこにあるのでしょうか。これがこのとき、M男さんの宿題となりました。
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