読み切り![イスタンブール]~毎日留学ナビ編~ (第12回)
第12回:フルタイム協奏曲
フリーライター、通訳者、コーディネーター
松井 和花
天理大学外国語学部英米学科卒業後、更に通信教育を経て小学校教員免許を取得、奈良県内の小学校で教鞭をとる。たまたま休暇で訪れたトルコに深く魅せられ、唐突に移住を決意。 ゼロからスタートしたトルコ語学習に始まったサバイバル生活も、今年で17年目突入。現在、イスタンブールにて『執筆で、トルコと日本を繋ぐ』をテーマに、フリーライターとして活動。トルコ人の夫と小学生の息子とのドタバタ3人暮らしの毎日。
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(2015年12月15日掲載)
▲この子を産んで怖いものがなくなり、さらに図太く進化した私。
♬子どもも産むし、キャリアも積むわよ♬
(Words & Music by Nil KARAIBRAHIMGIL)
もう10年以上も前でしょうか、トルコでこんな歌が流行りました。仕事と家庭の両立は、働く女性の永遠のテーマ。それはトルコでも同じです。
仕事か家庭かの二者選択でなく、全てを手に入れる理想を謳ったフレーズは、実際子育てしながら仕事を続けるトルコ人女性達の間で大きな共感を呼びました。
でも、現実はそう甘くない。いざ三度目の再就職が叶い、当時16か月の息子を預かってくれる託児所も何とか見つけ、再び多忙な会社員生活をスタートさせましたが、まるで毎日が綱渡りのようでした。
一番ヒヤヒヤしたのは、息子の病気でした。それでも、彼が熱を出したり風邪をひいたりする度、義理の母が泊まり込みでうちへ来てくれ、なかなか仕事を休めない私の代わりに息子の面倒を見てくれました。
歴代の私の上司も、会社が全員で4人の小規模体制だったこともあり、子育てしながら仕事する私を全面的に支援してくれ、何かと融通を利かせてくれました。
とはいえ、フルタイムで一日働いた後、大渋滞の中を大急ぎで息子を迎えに行き、家に戻って夕食を作って、風呂に入れ、合間に家事もこなし…と、子どもを寝かしつける頃にはとっくに私も電池切れ状態。本を読み聞かせているうちに意識が朦朧とし、いつも私が先に寝落ちし、化粧も落とさず、歯磨きもせず、気付いたら朝方だった、というのは日常茶飯事でした。
やがて息子も小学校に入学し、成長と共にあまり病気をしなくなりましたが、今度は私の仕事の方が忙しくなり、残業も頻繁になりました。あと、学校の休み期間にも悩まされました。
そんな時は学童保育所を利用したり、近所に住む友人達にすがったりして、どれほど助けられたか知れません。
三度目の会社員生活は、周りの人々の支えで何とか持ち堪えられた、実に危ういものでした。
トルコでは、共働きの場合夫婦どちらかの親に子どもを見てもらうのが一般的です。夫婦の出勤時間が早い場合は、近所に住む祖父か祖母が孫を迎えに来たりもします。
収入に少し余裕がある場合は、ベビーシッターや掃除婦を雇うのもポピュラーです。
民間企業の場合、出産・育休併せて4か月しか有休がないので、子どもが生後3、4か月の際に職場復帰しなければなりません(無給休暇は、その後6か月間迄取得可能)。
シッターが家にいてくれると、子どもが病気をしても会社を休まずに済むので、親の精神的ストレスはかなり軽減されますね。
都市部だけで言えば、私の実感として、トルコは日本よりも女性の社会進出が進んでいますし、実際管理職に就く女性の割合の高さにいつも驚かされてきました。
しかし彼女達も影では、日々仕事と家庭の切り盛りに四苦八苦しているのでしょう。
分かり過ぎます、その気持ち!
=続く=
▲<二人の母> この二人には、生涯足を向けて寝られない。 トルコに来て17年、苦境に陥る度に、実母に話を聞いてもらい精神的にどれほど救われたろう。働きながら私を育ててくれた母の苦労が、自分も親になって初めて分かった。 トルコの母は献身的で、良妻賢母を絵に描いたような女性である。私を実の娘のように大事にしてくれる。
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