海外で自分の声を見つけるまで ~Finding my voice through living abroad~
第2回:自分のニーズを体現すること
米国NPO法人Rootspring
プログラム統括
エリクセン恵(けい)
個人が持つ内面の豊かさを社会への変化に繋げることがミッション。リーダーシップ教育が専門のRootspringをはじめ、日本とアメリカの人材育成分野で約20年間、個人の成長を醸成する環境づくりに取り組んできた。Rootspringでは組織運営、パートナーシップ構築、ファシリテーションを行う。バーモント州の大学院SITで国際教育修士号取得。東京の多摩地域で育ち、現在はアメリカのシアトル在住。一児の母。
(2020年10月1日掲載)
日常で起きた些細なことが、その後何度も思い返す大事な出来事になるというのは、誰にもでもあると思います。
私にとってそんな出来事の一つは、2007年10月末のハロウィーンのこと。
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多くの学生は楽しみにしているイベントの定番ハロウィーン。大学院のキャンパス内では盛大な仮装パーティーが行われます。でも大勢いる場で仮装をして大騒ぎをするというのは、私にとっては気持ちが向かない理由が勢ぞろいのイベントでした。
行かないと付き合いの悪い人に思われる。ただでさえ、群れて行動してないし。でも行きたくない。
イベント数日前のこと。心が落ち着かないまま、学内で自習をしていた時に、隣にアメリカ人のクラスメイトが来ました。彼女は発言で目立つタイプというより、独特の静かなオーラと揺らぎのない存在感で人目を引くタイプ。恐らく30代前半だったと思います。私はその彼女の静けさに親近感を感じていました。
仮装してパーティーで大騒ぎ、という様が想像できない彼女に聞いてみると、「I won’t go because I don’t want to go. 私は行かない。だって行きたくないもの。」というなんともシンプルな答え。この一切の迷いのなさが、私にはあまりにも衝撃的でした。
その答えを聞くまで、私に見えていたのは「行きたくないけれど(行かないといけないから)行く」、もしくは「行きたくないから(理由を見つけて)行かない」の二つの選択肢だけ。
そこに「行きたくないから、行かない」という潔い選択肢は全くなかったのです。
自分のニーズを、自分の行動に直結させている彼女は、当時の私からすると、軽やかで、そして自由でした。自分で自分を縛り付けていないからこその自由さだったのだろうと思います。そして彼女の自由さは、私を解放しました。
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彼女の在り方から得た気づきは二つありました。一つは自分のニーズをシンプルに体現すること。そして二つ目は、ニーズを体現することで与える周りへの影響を恐れないこと。
「私には○○が必要です。なのでこれを選びます。」と言うことはとても利己的に思えて、私自身非常に抵抗がありました。けれど、自分のニーズを隠すことなく優先させることは、決して悪い事でも、恐れる事でもない。むしろ、自分に必要なものを理解し体現していくことで、もしかしたら私の知らないところで、誰かが必要としていた≪解放≫を感じてもらえるのかもしれない、と。
同時に、日本でそれまで暮らしてきた中で「私はこれがいいから、これをします」という人をあまり見かけていなかったことにも気付きました。それは、日本では自分の行動に対する選択権を、一旦社会や他者を通したあと、自分に戻し、そして最終決定をするプロセスが多いからなのかもしれません。
まぎれもなく、私もそのプロセスを無意識に幾度となく繰り返し、気付けばかなり疲弊していました。
自分の行動の選択権は、自分にある。頭では分かっていたつもりでした。でも体感として感じたのは、この時が初めてだったかもしれません。
「自分本来の在り方や性格を生かしつつ、それでいてグローバルな環境でどうやって生きていくか?」
と考えた時、自分は何が必要なのかを認識し、それを素直に受け入れることが大事だと気付きました。そして、最終的にはそのニーズに基づいた行動選択をしていくこと。あの時の私はニーズの認識までにとどまっていて、それをどうしたらいいか分かりませんでした。正直に受容することも、勇気を持って行動に繋げることも出来てはいませんでした。
わたしは、声高らかに【積極的で目立つ発言】でまわりに影響を与えていくことはないかもしれない。でも、自分に本当な必要なものを見分け、それに添った選択をする【行動や在り方】にもっと自信を持って生きていけばいいのかもしれない。どんな状況でも何が必要なのかは見える私の特性は、そんな静かな行動を通して生かせるはず。本質を捉える、それは様々な考えや価値観が混在するグローバルな環境においてこそ重要なこと。
アメリカで暮らし始めて、まだ1年も経たない時期のことでした。長年知らず知らずのうちに身に着けていた縛りを、確実にひとつずつ解いていっていました。
(次回につづく)
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