日本人ママとキューウィー義父さん (第15回)
第15回:大学進学の意味
エバコナ EVAKONA
学校長
マクリーンえり子
1950年、東京生まれ。大学卒業後に1年間イギリスに滞在、帰国後は海事広報協会の旬刊紙「海上の友」記者。結婚して3人の子をもうけるが、1989年に母子4人でニュージーランド(NZ)に渡り、その後NZ人と再婚。1990年から地元の公立高校で日本語教師として教える。2001年に退職し、高校に隣接した場所で、NZの大学や高校に留学を希望する生徒たちのための準備校・補習校として語学学校EVAKONA(エバコナ)を開校する。2008年8月には共同通信社発信、日本全国34紙で掲載中の「日本遠望」でその教育活動が紹介された。ニュージーランドから電話、スカイプでの無料教育相談も受けている。
(2011年2月15日掲載)
大学に進学することが今やあたり前のようになっている日本の高学歴志向に比べ、ニュージーランドでは高校卒業後の大学進学率はまだ低い。
しかし私がニュージーランドの教育システムで感心するのは生涯教育の進んだこの国では20歳を過ぎるとやる気さえあれば高校の卒業資格のあるなしにかかわらずだれでも大学に入れることだ。そのために子供を育てながら、あるいは仕事をしながら大学の通信教育を受けたり、定年退職してから大学に入りなおしたりする人が結構いる。
また、私の経営する語学学校でも、雇っている教師の技術の向上のために1年を通して定期的に勉強会を行い、また年に一度、熟練教官が各教師を指導法チェックして助言するシステムもある。だからどの教師も自分の教え方に胡坐をかいているわけにはいかないわけだ。ともかくどの人も勉強は必要に応じて続けるというのがこの国の一般的な考え方だ。
私の家では私が日本人なのでやはり3人の子供たちは高校を終えたら大学へ進むものと決め込んでいた。もちろん義父さんにはそうした固定概念はない。
幸い長女は高校を卒業したらデザインを勉強したいといって、自分で大学を選んで入ってしまった。それに対して小、中、高とサッカーに夢中だった長男は高3の最後で大学ではなくサッカーのプロになる学校に行きたいと言い出した。
驚いたのは私。長男は無事に2度目の国家試験をパスしたところでもあり、アートの才能もある。なんと言ってもスポーツ選手として生きるのは大変だろうと私は親として心配する。年が明けて私が大学に問い合わせてみると彼は大学に合格していることもわかった。
長男が悩んでいる間、私はただただ彼に大学進学を勧めたが、義父さんは両方の道の違いを彼に説明し、後は彼の選択に任せた。だから結果的には長男が自分で大学の道を選択したことになる。
義父さんの影響でいつか「経済自由人」になりたいと考えていた末息子は高3になると義父さんに「大学に行くべきか?」ときいた。義父さんは末息子に「僕は大学に行かなかったけれど、経済に関しては大学でたくさん学べることがあると思う」といった。「ただ何が学べるのか、よく調べてから行くかどうか決めろ」と。そこで末息子は各大学の学部内容を入念に調べ、実際に見に行って最終的にオークランド大学でビジネスを学ぶ決断を下した。
そんなわけで結局、3人の子供たちは日本人の私の思惑通り全員、時間通りに大学に入学し、卒業した。でもニュージーランド式に考えるならば必ずしもストレートに大学に行くのが良いとは限らないわけだ。
私のニュージーランド人の友人は義務教育しか受けていないが今ではプロの絵描きであり芸術家だ。また、パートタイムの仕事をしながら修士号を目指して勉強している主婦や、独学で飛行機や大型ヨットを作ってしまったお父さんなども知っている。
ニュージーランドでは人々の会話の中でどこの大学を出たといったことはほとんど話題に上らない。この国では人の価値はどこの大学を出たかではなく、何をしているのか、そして何ができるのかで決まるのだ。
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