グローバルキャリア塾 連載コラム

日本人ママとキューウィー義父さん (第9回)

第9回:自転車少年

エバコナ EVAKONA
学校長

マクリーンえり子

1950年、東京生まれ。大学卒業後に1年間イギリスに滞在、帰国後は海事広報協会の旬刊紙「海上の友」記者。結婚して3人の子をもうけるが、1989年に母子4人でニュージーランド(NZ)に渡り、その後NZ人と再婚。1990年から地元の公立高校で日本語教師として教える。2001年に退職し、高校に隣接した場所で、NZの大学や高校に留学を希望する生徒たちのための準備校・補習校として語学学校EVAKONA(エバコナ)を開校する。2008年8月には共同通信社発信、日本全国34紙で掲載中の「日本遠望」でその教育活動が紹介された。ニュージーランドから電話、スカイプでの無料教育相談も受けている。

エバコナ EVAKONA

(2010年8月15日掲載)

長男が自転車に乗って遠くに出かけるようになったのは15歳の時だった。体はどんどん成長していくのに心はまだ子供でアンバランス、何かと扱いにくい年頃だった。

そんな彼に義父さん は「部屋にこもるな。何でもいいから門から外に出て何かを見つけて来い」とよく言った。そしてある日、長男が遠乗り用の自転車が欲しいと言い出した。自転車に乗って、ハミルトンに引っ越していった友達を訪ねたいと言うのだ。ハミルトンまではゆうに250キロはある。私は驚いたが、義父さんは息子にどうやって実行するのか計画をたてるようにといった。

息子はさっそく自転車のカタログを集め、遠乗りにはどんな自転車がいいのか、何が必要なのかなどを調べはじめた。私たちもサイクリングの実用書などを買って渡したりする。

その内、息子が自分で自転車を買うお金も目途をつけたので、ついに家族で自転車を探しにハミルトンまで遠征することになった。 ハミルトンではいくつかの自転車屋を見て回った。その日1日がかりで何とか予算と目的に合った自転車がみつかり、ヘルメットと携帯用のパンク修理道具も買いこんで、息子は大満足だった。

家に帰るとサイクリングにむけて義父さんが息子にパンクの直し方を教える。また遠距離になると時にタイヤチューブも交換が必要だ。それも練習する。そして長距離に必要なエネルギーや水分をどう補給するのか計画を立て、息子はその週から毎日家の周辺を乗り回し、長距離に備え始めた。

さあ、いよいよ計画実行の日がやってきた。息子は軽くてエネルギー補給しやすいチョコレートバーやミューズリーバーと水を自転車に積み込む。

私たちの住むフィティアンガからテームズまでは車でも1時間以上かかる峠越えだ。山道は曲がりくねっている上に急な登り坂が多い。そしてテームズからハミルトンまでは比較的なだらかな田舎道だが車で飛ばしても1時間半はかかる。

息子はその朝4時に家を出発した。夏の朝とはいえあたりはまだ暗い。私は心配で眠れぬまま待った。2時間後の6時、フィティアンガから40キロほど離れたタイルアの町から電話があり、無事第一関門を通過したと言う。

結局、朝4時に出た息子はその日の夕方無事にハミルトンの友人宅に着き、嬉しそうに電話がかかってきた。
 
その最初の冒険旅行の成功が息子に大きな自信をつけたのは言うまでもない。
以後、彼は何度かハミルトンの友人宅を自転車で訪ねている。

そしてウエリントンの大学に行ってからも2回ほど夏休みにフィティアンガまで自転車で帰ってきた。もちろん自転車は15歳の時に買ったものだ。

ウエリントンを出るときはその1ヶ月前からハイウエーを出る練習をつみ、友人に連絡をとっていく先々で泊めてもらったそうだ。一度目はギズボーン、ロトルア、タウランガとそれぞれ大学の友人宅に泊まりながら、途中で友達とサーフィンを愉しんだりしながら2000キロ近い道則を1週間以上かけてフィティアンガに戻ってきた。道路の脇で何度もタイヤのチューブをかえ、時には公園の子供用ハットに自転車ごと潜り込んで夜を明かしたそうだ。

息子からフィティアンガに近づいたとの連絡を受けた時に、義父さんと車で途中まで迎えに出たことがある。フィティアンガから次の町までは一本道なので必ず出会えるはずだった。今か今かと待ち受けながら私たちは曲がりくねった道をドライブしていった。すると1つの長いカーブに差し掛かったところで息子がフルスピードで坂を降りてくるのに出会った。そして彼は私たちには気づかずあっという間に通り過ぎていった。その早業に「ワー、やるねー」私は思わす叫んだものだ。

その晩、真っ黒に日焼けした長男を囲み、私たちはビールで乾杯した。

その昔、私は「男の子には沢山の体験的教育が必要」などと偉そうに理屈をこねていたのだが、まさに体を極限まで使うという経験をつみながら逞しく成長している息子を前にして、今となっては理屈ぬきでうれしいと思う。そして私一人ではこうは育てられなかったなーとつくづく思うのだった。

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