日本人ママとキューウィー義父さん (第6回)
第6回:ニュージーランドの頑固オヤジ
エバコナ EVAKONA
学校長
マクリーンえり子
1950年、東京生まれ。大学卒業後に1年間イギリスに滞在、帰国後は海事広報協会の旬刊紙「海上の友」記者。結婚して3人の子をもうけるが、1989年に母子4人でニュージーランド(NZ)に渡り、その後NZ人と再婚。1990年から地元の公立高校で日本語教師として教える。2001年に退職し、高校に隣接した場所で、NZの大学や高校に留学を希望する生徒たちのための準備校・補習校として語学学校EVAKONA(エバコナ)を開校する。2008年8月には共同通信社発信、日本全国34紙で掲載中の「日本遠望」でその教育活動が紹介された。ニュージーランドから電話、スカイプでの無料教育相談も受けている。
(2010年5月15日掲載)
思春期を迎えた子供というのはともかく扱いが難しい。それまで母親一辺倒で母親のルールがすべてだった子供達が少しずつ手強くなり始める。母親にとって特に男の子は難しくて、強い父親の存在とサポートが必要となってくる。
義父さんが家族に加わった時、長男は12歳で、ちょうどその難しい時期にさしかかっていた。甘えの裏返しで母親に平気で生意気な口を利き、言うことを聞かない。
ある時、例によって息子が反抗的な態度で私に口答えをしはじめた。そして弾みがついて私に英語で悪い言葉を投げつけた。
とたん! 義父さんは息子を押さえてすかさず言った。
「おい、君が今最低のマナーで接している人は僕の大切な奥さんなんだぜ」と。それ以来、息子は決して私に英語で悪態をつかなくなった。
義父さんの子供たちへの接し方はいつもシンプルで核心をついていた。その言葉には不思議と逆らえない強さがあり、一度決めたルールは忘れずに必ず実行させる。
例えば子供達が与えられた手伝いをしない時、「やりなさい」とか「なぜやらない」とか催促しない。その代り「ストーブの薪の係りが好きじゃないようだけど、その代り牛の移動の方をやるかい」ともちかける。もちろん薪のほうがずっと簡単な仕事なので子供は喜んで(?)薪係りを選ぶことになる。
また食後の皿洗いの順番でいつも言い争っている息子たちに「喧嘩をするな」とは言わない。その代り「前日にどちらがやったか覚えていられないのなら明日から毎日2人で一緒にやりなさい」と言い渡す。
息子達は瞬時にして言い争いをしたことを悔いたがすでに遅かった。今まで1日おきだった皿洗いがその日から毎日となってしまったのだ。
そしてある時、その皿洗いを2人して忘れ、汚れた皿をキッチンに残したまま翌朝登校しようとしている息子達に義父さんは一言、
「オイ、皿を洗ってから学校に行けよ」といった。
その朝、皿洗いを終えた2人はついに1時間目を遅刻する羽目に成ったのである。
この食後の後片付けはどういうわけか子供達には人気のない仕事でこうした失敗にも懲りずに定期的にルールが乱れた。
そこでまた義父さんの新ルール。
「理由なく皿洗いを忘れた場合は次の日の夕食を作る」
「OK」息子達は簡単に同意した。でも案の定すっかりルールを忘れる日がやってきた。前の日の皿洗いを忘れた子供達に義父さんはもう何も言わない。そしてやはりルールをすっかり忘れていつものように料理をはじめようとする母親を制して、今日はのんびりテレビを見ていようという。私は子供達に注意をしたくてうずうずするが、じっと我慢してテレビを見続ける、そんなこととは知らない子供達はのんびりと自室で本を読んだり、宿題をしたり、いつものように母親が「ご飯ですよ」と声をかけてくれるのを待っている。
7時になっても彼らはまだ気がつかない。とうとう8時になった。私は何度も席を立ちかけたが、義父さんに止められ力なくテレビを見続ける。
8時半、やっと長男が気付き、「今日のご飯は何」と聞きに来た。
すると義父さんが普通の調子で「今日は君達が作るはずだろ。こちらも待っているんだけど」とかわした。アッと一瞬にして悟った長男はあわてて次男の所に飛んでいき、2人はこれまでみたこともないような協力体制で料理をしはじめたのだった。
ヤレヤレなんという辛抱強さ!義父さんはニヤリと笑って「僕は忍耐力では負けないよ」。
しだいに子供達はそうした義父さんの一徹な躾に信頼を寄せはじめた。そして私はひそかにそんな彼を“ニュージーランドの頑固オヤジ”と呼んでいる。
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