グローバルキャリア塾 連載コラム

アジアの熱風 (第13回)

第13回:タイ人へのビザ免除

英文毎日室長、ザ・マイニチ編集長

西尾 英之(にしお ひでゆき)

1963年生まれ。87年毎日新聞入社。福島支局、社会部などを経て03年から特派員としてパキスタン、インド、タイの各国に駐在。12年4月から現職。

The Mainichi

(2013年7月1日掲載)

帰国した日本人には愛想のよい成田空港の入国審査官は、アジアの人々に対しては入国目的や滞在先、所持金などをネチネチと質問する。各地の日本大使館領事部は、ビザ申請者に銀行の預金残高証明書まで提出させた揚げ句に、しばしば理由を告げないまま門前払いする。

日本に限ったことではないが、一国の入国管理行政とは「国にとって好ましからざる(迷惑をかける可能性のある)人物をいかに入国させないか」が主目的だ。そのこと自体は仕方ないのかもしれないが、日本を訪れようとして大使館や入国審査で屈辱的な扱いを受け、すっかり日本嫌いになった人を何人も知っている。入管行政の硬直的な制度と、携わる公務員のアジアを見下した態度に腹を立て続けてきた。だから私は「7月1日からタイ人の観光ビザ取得が不要になった」というニュースに、心の中で喝采を叫んだ。

観光目的の15日以内の滞在ならば、タイ人はノー・ビザで日本への入国が可能になった。その背景にあるのは、日本に「不法滞在」するタイ人の激減と、それに反比例するかのような日本へのタイ人観光客の増加だ。

ピーク時の1993年、法務省の調べでは日本には約5万5000人のタイ人が不法滞在していた。その大部分が、安い賃金と厳しい労働条件で働く「不法就労者」だった。当時、何人もの不法滞在タイ人を取材した。頑張って働けば故郷に家を建てるほどの稼ぎになるが、「不法」なために健康保険に加入できず、病気になっても病院に行けない。日本で子供が生まれ学齢期に達しても、小学校に入学させることもできない。「ビザ」や「在留資格」は、異国で必死に生きる彼らにとって恨みのタネだった。

だがその後の日本経済の沈滞で、出稼ぎ先としての日本の魅力は薄れた。不法残留タイ人は減り続け、今年1月には約3600人とかつての10分の1以下だ。

一方で経済成長で生活に余裕ができたタイでは、かつての日本のような海外旅行ブームが続いている。日本を訪れたタイ人観光客は昨年1年間で約20万人と、04年から3倍以上に急増。今年は5月までにすでに18万人に達し、昨年からも倍増の勢いだ。

人口減少で客足が衰えた日本の観光産業はいま、海外からの観光客呼び込みに必死だ。政府のなかでも特に頭の固い法務省も、タイ人を「閉め出す」ことから、頭を下げて「来て頂く」方向へ舵を切らざるをえなくなったのだ。

日本の「失われた20年」を経て、日本とアジアの関係性は大きく変わった。日本はもはや「アジアで唯一の先進国」という特別な立場にはない。頭を下げて売り込んだり、助けを求めたりしなければ日本は生き残ることはできない。

頭の固い役所ですらそのことに気付いているのに、日本の一部の人たちは逆の方向に走っているように見える。「外国人排除」など、叫んでいる場合ではないのだ。

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