グローバルキャリア塾 連載コラム

アジアの熱風 (第2回)

第2回:200バーツの昼食

英文毎日室長、ザ・マイニチ編集長

西尾 英之(にしお ひでゆき)

1963年生まれ。87年毎日新聞入社。福島支局、社会部などを経て03年から特派員としてパキスタン、インド、タイの各国に駐在。12年4月から現職。

The Mainichi

(2012年6月1日掲載)

3年ぶりに戻った東京。会社のあるビルの地下1階にはレストランや飲み屋が並んでいる。地方や海外勤務から戻るたびに何軒かは新しい店に入れ替わっているのだが、今回帰国して気がついたのは、新しい店ほど値段が安いことだ。

私が入社した二十数年前から続く店は、ランチに1000円近くは出さねばならない。最近開店したばかりの店は、500円玉で昼の弁当を買ってお釣りが来る。行列ができているのは、もちろん安い弁当店の方。消費が冷え込みデフレが続く日本の現状を思い知らされると同時に、ついこの間までいたバンコクの姿とどうしても比べてしまう。

バンコクといえば、路上の至る所にある屋台が有名。プロパンガスの火でその場で調理する焼き飯や麺類が、一食40バーツ(約100円)程度で食べられる。ビニール袋や発泡スチロールの容器に詰めて持ち帰りも可能だ。ランチタイムに都心のビジネス街の屋台にできる長い行列はバンコク名物だが、この数年、冷房が効いたレストランで昼食を取る若者が急速に増えてきた。

タイの屋台料理。北部チェンマイで名物のソーセージを焼く女性(西尾撮影)

バンコク支局の入るビルの1階に「シャブシ」というちょっと奇妙な名前の店があった。地元大手レストラン・チェーンが経営する、「すし」と「しゃぶしゃぶ」が同時に食べられる日本食レストランだ。この店でランチを取ると一人200~300バーツかかるが、昼食時、店はいつも地元の若い男女で満席だった。

日本円に直せば500円から750円ほど。なんだ普通だねと考えると、ちょっと違う。バンコク都心部の人々の給与水準は東京に比べれば3分の1から4分の1程度。1バーツは実際の2・5円ではなく10円で換算しないと、日本人の金銭感覚と一致しない。つまりバンコク都心部の若者は、日本人の感覚では2000円から3000円する外国料理のレストランで昼食を食べている。

支局の向かいの五つ星ホテルに入る最高級和食店は、昼食時でも500バーツはする。さすがに地元の若者で満杯とはいかないが、それでも客の大部分が日本人だった以前に比べると地元客が目立つようになった。日本人、タイ人の双方が訪れる和食店で聞くと、以前は日本人客の方が「客単価」が高かったのが、この数年で逆転したという。沈み行く経済大国・ニッポンと成長を続ける東南アジアの勢いの違いが、こんなところにも現れている。

日本料理だけではない。バンコクにはイタリア、フランス、中東、韓国など世界各地の料理店が集まり、いずれも地元の若者たちでにぎわっている。外食にカネをかけるなんてもったいない、と思わないでほしい。卑近な例で恐縮だが、私は学生時代、当時はまだ珍しかったタイ料理の店で「タイ・カレー」を食べて、その不思議な味わいに魅了されてタイに関心を持ち、今に続く「アジア」の道に入った。

幾分、食いしん坊の私のこじつけではあるが、自分の知らない味、ひいては知らない文化に触れることは、自分の将来への投資にもなり得る。いつもワン・コインの弁当では、世界の若者に勝てません。たまには珍しい外国の料理も食べて、世界に関心を広げてほしい。

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