留学と国連-世界8カ国で学んだブレずに自分の軸で生きる力
第12回:平和に向けて価値観のシフトをサポートするということ②ー紛争後の南スーダンで真っ先にオープンしたお店はなぜネイルサロンだったのか?ー
Peace Blossom 代表
キャリアコーチ・マインドセットコーチ
異文化リーダーシップトレーナー
元国連行政官、米軍専門家
大仲千華
国連の行政官(社会統合支援担当)として国連ニューヨーク本部、南スーダンなどで和平合意の履行支援、元兵士の社会統合支援、人材育成に約10年従事。80人強の多国籍チームのリーダーを務める。閣僚経験者も任命される政府要員向け国連PKO国際研修の講師。内閣府「平和構築・平和維持に関する研究会」委員。「自分の軸で生きる練習-オックスフォード・国連で学んだ答えのない時代の思考法」を刊行。コーチングのプロとして自分の軸で生きる大切さを伝えている。オックスフォード大学修士課程修了。
(2022年9月9日掲載)
紛争終結後の南スーダン。驚くくらい道路も建物もない当時の南スーダンで、施設を建設すること、なんらかの訓練を提供することは、必要な資材を文字通りネジ一つまでも隣国のウガンダかケニアから輸送してくることを意味しました。
そこで私が直面したことー
それは、
そこまで大きな苦労をして、いくら素晴しい訓練施設を建て、訓練やプログラムを提供しても、当たり前ながら学ぶ人もいれば学ばない人もいるということ。
その中には、技術的なものを学ぶ前に「あの紛争はなんだったんだ?」という心の整理がまだ終わっていない人がいるんじゃないか?
もう紛争に駆り出されなくて済むのはいいことだろうと、外の人たちは思うのですが、当事者である彼らにとっては、新しい社会に適応するためのなんらかのステップが必要なんじゃないか?ーということでした。
生まれてから戦争しか知らない人たち
兵士としての生活しか知らない人たち
ほとんど教育というものを受けたことのない人たち。。。
南スーダンの紛争は独立闘争だったので、兵士であることは、生存や安全、尊敬、誇り、帰属意識、参加、アイデンティティーを意味しました。つまり、紛争の終結は待ちに待った「平和」であると同時に、彼らにとっては「大きな変化(喪失)」でもあったからです。
ほぼ全員がなんらかの形で紛争に関わっていた社会背景の中で、誰もが「紛争のメンタリティー」から「平和のメンタリティー」にシフトすることが求められていました。しかし、気になったのは、南スーダンの人たちが日常会話の中で疑問なくかわす会話でした。
南スーダン人の親が子ども達に言います。
「『アラブ人』は人間じゃないから話したらいけないよ。」
「アラブ人」は南スーダンの人たちのことをこう言います。
「彼らは『野蛮人』だからイスラム教が必要だ」。。。
ご縁があって、たまに勉強を見てあげていた南スーダン人の高校生アコル君とこんな会話になったことがありました。
「アコル、今日はどんなこと習ったの?」
「今日はね、『今日のアフリカの戦略的な課題はなんですか?』っていう質問だよ。」
「へえ?!博士論文みたいな随分難しい質問をやったんだねえ。」
「それでどんな答えだったの?」
「アフリカが貧しいのはアラブのせいです。」
「誰が言ったの?😵」
「先生だよ」
!!!
個人の偏見や憎しみが宗教や民族の違いに置き換えられ、紛争が終わっても繰り返し受け継がれている「負の連鎖」。
職業訓練などの技術的な解決方法はそれなりに提供することはできるけれども、社会が本当に平和になるには、こうしたメンタリティーが断ち切られる必要があるーそう思わざるを得ませんでした。
南スーダンで気づかされたのは、やはり、制度や仕組みだけをつくっても十分ではなく、それらが本当に定着するためには、人々の考え方や価値観のシフトが伴わなければならない、ということでした。
ハーバード大学のロナルド・ハイフェッツ教授は、「課題」は技術的に議論し解決できるものと(「技術的課題」=Technical Challenge)、人の適応や価値観の転換が求められる課題(「適応課題」=Adaptive Challenge)の二つに分けられると言います。
そして、今のような変化の時代には、「技術的な課題」だけでなく、「真の適応課題」に私たちが向き合うようになれることが重要だ、と言います。
「適応課題」とは、例えば、一見よさそうな制度や仕組みが出来上がっているのになぜ定着しないのか、なぜ人々は古いやり方を繰り返すのか、といったものです。こうしたものは、技術的に取り扱われるものではないので、その社会や組織の人たちが大切にしている価値観や信念を明らかにし、彼らが変化に適応できるように戦略的、かつ、政治的に対処していくことが鍵となる、と指摘されています。
別の言い方をすると、
必要な制度や枠組みを整備しながらも、
時には変化に対する人々の不安や心配に寄り添い、
人々に安心を与えること、
かつ社会や組織が目指す価値や方向性をはっきりと示すこと、
そして、「本当に大切なこと」を見分け、
人々を真の成長に向けることとも言えます。
職業訓練によって、元兵士の人たちに技術的な支援を提供することはできても、本当に求められていたのは、価値観の転換や適応に関するサポートだったということは多々ありました。
最後に触れたいのは、南スーダンの首都で、紛争後に真っ先にオープンしたお店の一つがなぜネイルサロンだったということです。
紛争地でネイルサロンと聞くと、驚く人もいるかも知れません。でも、そのネイルサロンで女性たちが楽しそうにおしゃべりしている様子を見る度にこんな風に思ったことがあります。
綺麗なネイルは、平和と自由、新しい始まりの象徴でした。女性たちは、自分の手がケアされ、ネイルがカラフルに輝いくのを見て、内戦が終わったことを実感し、平和と自由、癒しを体験しました。ネイルを通じて、女性たちは新しいチャレンジに立ち向かうための意欲と勇気を受け取っていったのです。
なにより、その美しく輝く女性たちの存在自体が「やっぱり、戦争ではなく平和がいい!」と力強く物語っていました。道義的に平和を叫ぶよりもよっぽど説得力があったことでしょう。
紛争後のネイルサロンの価値は、単につめがきれいに、カラフルになるという以上のものでした。
変化のサポートが大きな価値になるということを学びました。
私たちも今、大きな変化の時代におかれています。
今どの国に今住んでいたとしても、「本当に大切なこと」を見分け、「自分自身を、人々を真の成長に向けること」の緊急性が、わたしたち一人一人に当てはまるとを強く感じています。
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