グローバルキャリア塾 連載コラム

留学と国連-世界8カ国で学んだブレずに自分の軸で生きる力

第9回 当たり前のない時代に当たり前を問う力: 独立国の誕生に立ち会って学んだこと

Peace Blossom 代表
キャリアコーチ・マインドセットコーチ
異文化リーダーシップトレーナー
元国連行政官、米軍専門家

大仲千華

国連の行政官(社会統合支援担当)として国連ニューヨーク本部、南スーダンなどで和平合意の履行支援、元兵士の社会統合支援、人材育成に約10年従事。80人強の多国籍チームのリーダーを務める。閣僚経験者も任命される政府要員向け国連PKO国際研修の講師。内閣府「平和構築・平和維持に関する研究会」委員。「自分の軸で生きる練習-オックスフォード・国連で学んだ答えのない時代の思考法」を刊行。コーチングのプロとして自分の軸で生きる大切さを伝えている。オックスフォード大学修士課程修了。

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Peace Blossom

(2021年2月16日掲載)

「緊急人道支援のため通過を許可する」── 私のパスポートには、オーストラリアの通過ビザが押されていました。目的地は、私にとって国連でのアサインメントとして初の赴任地となる東ティモールでした。
 
インドネシア・バリ島の東方に位置する東ティモールは、インドネシアによる併合後、2000年に独立を問う住民投票が行なわれ、その際に、独立に打撃を与えたい民兵(インドネシア軍)によって9割のインフラが破壊される壊滅的な打撃を受けたばかりでした。東ティモールという新しい国の独立支援の一環として住民投票と選挙支援を行うこと ── これが私の職務でした。
 
これから新しい国の誕生に関わるんだという緊張感と興奮はあったものの、国連という組織、初めての国、初めての職務。初めてのことばかりで、実際に何をするのか実感がわかないというのが正直なところでした。
 
オーストラリアのダーウィンで1週間の研修を受け、国連が運営する軍用機に乗って、東ティモールの首都ディリに到着しました。
 
まず、驚いたのは、道の右側を走る車があり、左側を走る車があったこと。インドネシアの統治下にはないものの、まだ新しい国としての法律もそれを取締る警察という組織もない、という段階でした。
 
さらに驚いたのは市場での買い物でした。買いたいのはトマト。英語が通じないので、トマトを手に持って片言のインドネシア語で尋ねました。
 
「リマリブ?」(5000ルピー)?
「ノー。 トマト ワンダラー」
 
「えっ?今日は one dollar?おとといは5000インドネシア・ルピーだったけど?!」
 
しかも、そのone dollarも、オーストラリアドルの日もあれば、米ドルの日もあるのです。トマトを買うのに値段が変わるだけでなく、貨幣も変わっていくのです。
 
国が機能しているところでは、中央銀行(日本では日本銀行)が、その国の貨幣と通貨価値を決定し、銀行券の発行と流通を管理しますが、独立前の東ティモールでは、国(制度)がまだなかったので、人々はいろいろなお金を使っていたのです。
 
国がないってこういうことなんだ!!!💡💡💡
 
「国」という制度(枠組み)さえ、まったく当たり前でないことを思い知らされた瞬間でした。

東ティモール 東ティモール
東ティモールで住民投票のために村々に赴く。国連の職務の中で一番よく歩いた。
雨季で川を渡れない場合にはヘリコプターを要請したことも。

そんな状態から7ヶ月後、東ティモールでは初めての国政選挙が実施され、議会が生まれ、「国」として一気に形を現し始めつつありました。
 
支援する側の私の仕事としては、有権者を確定するための住民登録の実施と支援、政府選挙委員会の人選、トレーニング、助言、啓発活動、当日の投票の監督等がありました。当時は、民兵が選挙を妨害するのではないかという危惧があり、そのためのトレーニングも積んでいたところでした。投票が邪魔されることなく終了し、みんなで無事にやり終えた時には、ほんとうにホッとしました。
 
東ティモールに来てから、一年4ヶ月の間に、憲法が制定され、議会、行政組織ができ、新しい公用語と教育カリキュラムが策定され、学校も開始されました。
 
2002年5月20日、東ティモール(Democratic Republic of Timor-Leste)は21世紀初の独立国として承認を受けました。

東ティモール
2000年8月30日。東ティモールで初めて国の代表を選ぶ国政選挙(制憲議会選挙)が行われた。一張羅を着て、朝の5時から初めての一票を投じるために並ぶ人々。

東ティモール
集計作業が開始。ジミーカーター元米国39代大統領が設立したカーターセンター等が派遣する監視員も選挙の運営を見守った。

この体験は、私にたくさんの洞察をもたらしました。それは、国という制度は、当たり前ながら、上から降ってくるように最初から存在するものではなく、どんな国を目指すのかという理念と意思を持ってつくられなければならず、国の発展にはその国の方向性を指し示すビジョンが不可欠であり、かつ、それを育み、守らなければいけない、ということです。
 
国の法律、制度、政策どれ一つをとっても、人がつくるもので、検証なしに「当たり前」のように存在していいものは、一つもないということです。
 
私は、8カ国で暮らし働いてきたので、日本にある安全や制度がいかに有難いものであるかが分かります。ですから、それらに対する感謝の気持ちを持っています。同時に、国の制度も政策も全ては人間がつくるものなので、時には、それらの妥当性を吟味する厳しい目も必要だという認識も強く持っています。これが何一つ「当たり前ではない」という意味です。
 
オックスフォード大学大学院に導かれ、かつ東ティモールや南スーダンといった現場に私を向かわせることになった原動力には、「民族が違うだけで人はほんとうに争うのか?」という私の中の「なぜ」がありました。 (第5回「その人の人生を導いてくれる『なぜ』の力」参照のこと)
 
この「なぜ」に対する発見の一つはショッキングなものでした。
 
1994年に起きたフツ族がツチ族を殺したルワンダの虐殺と呼ばれるものがあります。私は大学生の時に、ルワンダ虐殺の写真展をクラスメートと一緒に見に行きました。死体の上にいくつもの死体が重ねられている写真の数々を目にした時、それまで漠然とあった「どうして?」という疑問は、写真展を出てくる時には、もはや私の中で唸り声のように響いていました。
 
あれから10数年を経て、「隣人が殺人者に変わる時 和解への道―ルワンダ・ジェノサイドの証言」(ジャン ハッツフェルド著、かもがわ出版)という書籍の中で、沈黙し続けた生存者と加害者がはじめて語った当時の状況や現在の心境を語っています。
 
 
以下抜粋。
 
「俺たちは仲間にバカにされたり、非難されるよりも、マチェーテ(なた)を手に取った方が楽なことに気づいた。
 
…(中略)…
 
 ある日を境に、僕は使い慣れたマチェーテ(ナタ)を手に、隣人の虐殺を始めた。家畜を屠殺するように淡々と…
  
…(中略)…
 
政府はジェノサイドを命じ、市民はそれに従った。新政府は赦せというから、今度はそれに従った。」
 
私たちは、紛争や内戦と聞くと、自分たちとは違う残虐な人たちが、殺し合っているのだと思うかも知れません。私にとってショックだったのは、当事者の多くは、どちらかと言うと真面目で従順な人たちだったということです。しかも、政府が言ったことに従った「いい人」が殺人者になってしまったのです。
 
これは、今の時代を生きる私たちにとっても大きな示唆を含んでいると感じます。
 
この「政府」とは比喩的で、私たちが「絶対」だと思っているもの、「常識」としているもの、「当たり前」だと思っているものに置き換えられます。
 
本コラム第四回目では、どんな課題や状況に対しても自分の頭で考え、自分で答えを導き出す姿勢が大切だとお伝えしました。これはアカデミックな世界に限りません。新型ウイルスの流行によって、誰もがこれまでなかった状況に直面する中で、自分で考え、決めなければならない決定や課題が増えています。
 
当たり前だと思ったものがけっして当たり前ではない、と実感するようになったのと同様に、そして、ルワンダの事例が示すように、言われたことをただそのまま受け入れるのではなく、「この情報は正しいのか?」「どういう根拠があるのか」「これは本当に正しいのか?」と、吟味し、問いかける姿勢が不可欠な時代です。
 
自分の頭で考えること、自分で調べて納得する答えを導き出すこと、「なぜ」と問うことが、今の時代極めて重要であると思います。

大仲さんの書籍「自分の軸で生きる練習~オックスフォード・国連で学んだ答えのない時代の思考法」が雑誌「東洋経済」にて紹介されています。

未曾有のウイルスによって働き方やライフスタイルに大きな変化が起きている。先が見えない中、どう行動するのが正しいのか、誰を信用すればいいのかなど、「唯一無二」の答えが存在しない状態となっている。こうした中、『自分の軸で生きる練習』筆者で、コーチングのプロとして活躍する大仲千華氏は、「未知の状況では、たった1つの答えを追求するより、どんな状況にあっても、いかに自分で考えるかということのほうが重要だ」と話す。本記事では同氏がオックスフォード大学で学んだ自分の頭で考えて、自分に必要な答えを導き出す方法を紹介する

▼続きは以下のリンクからどうぞ!

なんでも「正解」が欲しい日本人に足りない視点: オックスフォード大学式チュートリアルとは (東洋経済 ONLINE)

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