グローバルキャリア塾 連載コラム

留学と国連-世界8カ国で学んだブレずに自分の軸で生きる力

第13回:世界で日本人の力が求められているということー紛争地の最前線で体験した「仲裁の力」<南スーダン編> 2/2

Peace Blossom 代表
キャリアコーチ・マインドセットコーチ
異文化リーダーシップトレーナー
元国連行政官、米軍専門家

大仲千華

国連の行政官(社会統合支援担当)として国連ニューヨーク本部、南スーダンなどで和平合意の履行支援、元兵士の社会統合支援、人材育成に約10年従事。80人強の多国籍チームのリーダーを務める。閣僚経験者も任命される政府要員向け国連PKO国際研修の講師。内閣府「平和構築・平和維持に関する研究会」委員。「自分の軸で生きる練習-オックスフォード・国連で学んだ答えのない時代の思考法」を刊行。コーチングのプロとして自分の軸で生きる大切さを伝えている。オックスフォード大学修士課程修了。

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Peace Blossom

(2022年10月1日掲載)

 彼らが言わんとしていたことは、多分こうだったんじゃないか?と思うのです。
 
「あなたは何のためにこの場にいるのか?」
「あなたは私が言っていることを本当に理解しようとしているのか?」
「それとも「『あなたは正しく』て、『私たちは間違ってる』」とでも言いにきたのか?」と。
 
人は誰でも聞いて欲しいと思います。
人は自分のことを理解してもらいたいと思っています。
武器を手にとってでさえも守ろうとしているものがあるのであれば、尚更のことだと思います。

でも、聞く側が「自分はすでに知っている」、「自分は正しい」、「これはこうあるべきだ」と思いながら聞いている限り、自分が聞きたいこと、知りたいことしか耳に入ってきません。相手の言うことを音として認識できたとしても、相手が本当に言わんとしていることを「心の耳」で聞くことができません。

その態度が続く限り、議論が平行線になることはあっても、本当の意味で交わることができないのです。

彼らが私たちに問うていたのは、「あなたは本当に聞こうとしているのか?」という、こちら側の態度だったのです。

私(たち)は相手を理解するために本当に「聞く」必要があったのです。

そのことに気づいてからは、相手を説得させるためでもなく、自分の仕事の利益のためでもなく、文字通り相手の言う事をまず「聞く」ために出かけていきました。

SPLAの司令官に自ら会いにいき、「聞かせて欲しい」「教えて欲しい」とお願いしました。

相手の言うことに耳を傾ける中で、私の口から自然と出てきたのは、「今、あなたが仰った事はとても大切だと感じました。あなたが言ったことを理解したいと思っているのですが、どうしてそのように考えるようになったのか教えていただけませんか?」といった質問でした。

後で知ったことですが、このように相手の意見の背景や理由を尋ねることは、対話的手法と呼ばれ、紛争解決のために非常に有効な聞き方でした。その事に気づいてから、今までにない手応えを掴み始めていました。

ヘリコプターからの風景

スーダン軍とスーダン人民解放軍(SPLA)と共にヘリコプターに乗って彼らと一緒に「現場検証」に行ったこともあった。写真には残ってないけれど、一緒に時間を過ごしている間に笑ってくれるようになったことも。

ヘリコプターに乗って彼らと一緒に「現場検証」に行ったこともありました。「会合で指摘されていたことはこうでしたが、実際に起きていることはこうでした」と、一つ一つ事実を確認をするのです。

私が彼らのことを本当に理解できたかどうかは分かりませんが、少なくともこちらが相手のことを理解しようとしている姿勢は伝わるらしいのです。何度も顔を合わせている内に、徐々に彼らとの間に信頼関係が生まれてきました。

相変わらず会合で緊張の強いられる時間が続いた後には、意図的にランチ休憩が設けられました。スーダン軍とスーダン解放戦線と一緒にテーブルを囲みながら、「今日のカレーは美味しいね」とおしゃべりしながら、誰かの言ったジョークで笑い合ったこともありました(ランチは、国連軍が持ち回りで用意していました)。その瞬間は、「ああ、この人たちも同じ人間なんだなあ」と、しみじみ思ったものでした。

パイロット

何度もヘリコプターに乗っているうちに、パイロットの人と仲良くなってコックピットで着陸まで過ごしたことも。

仲裁は交渉と違い、基本的には、どちらかの意見について間違っているとも正しいとも意見をすることはありません。むしろ、第三者として、両者がそれぞれの意見をテーブルに上げることができる「中立的な場」を設けることを重要な役割とします。仮に誰かが怒りだすといったことが起きたとしても、それも含めてその状況をまず理解しようとします。双方の言い分を聞き、それぞれの言い分や立場を理解した上で、橋渡しをしながら、両者の接点を粘り強く探し求めていきます。

彼らと何度も顔を合わせ、何度も彼らの言い分に耳を傾ける中で、それまで怖い顔をして一切笑わなかった彼らが、互いに顔を合わせて笑ったのを見た瞬間に「仲裁の力」が働いたのを感じました。現場で、敵同士でも個人レベルでは信頼関係が生まれるのを見たときに、やはり「仲裁の力」を実感しました。

仲裁とは、相手を特定の意見に誘導したり、無理やり説得しようとすることではありません。それは、分断や対立、権力闘争といった、人を人として見えなくしてしまう人間の弱さや勢力、誘惑との闘いにあって、たった一人でもいいから、相手が言わんとしていることに耳を傾け、相手の本当の姿を見ようとする人がいるところに働く力のように感じました。

「私たちは相手を、顧客や部長、〇〇係として見るのではなく、まず、相手も一人の人間だということに気づかなければならない。『相手も私とまったく同じ人間だと見れること』ーそれによって信頼構築の下地を作ることができる。状況が複雑な程これが重要になる」とは、ある多国籍企業の交渉に関わった人の談です。

私自身、このような関わり方を持てるようになってからは、政府の閣僚級の人が、まだ他の人が知らないことを真っ先に私に教えてくれるようになる等、相手との関係性において明らかな違いを体験するようになりました。こうした体験を通して、難しい状況においても誠実に粘り強く関わり続ければ信頼関係を構築できるという大きな自信を得ました。

紛争地でもビジネスでも、結局は人と関わることに変わりはありません。おそらく本当に大切なことはその根本においては同じなのです。

少しでもニュースを開けば、紛争地に限らず、世界の課題は山積みのように見えます。 そして、私たちは何か「大きなこと」をしないといけないと思いがちです。
しかし、仲裁の力は、「相手の言う事に本当に耳を傾けること」から始まりました。
一見、とても小さい事のように聞こえるかも知れないけれども、その力は決して小さくない。そして、「仲裁の力」こそ、日本人が得意な分野だ!ーそう実感した南スーダンでの体験でした。
今のような時代だからこそ、一見小さいことが大きな価値を持ち、その小さなことに励まされる人がたくさんいるのです。

南スーダン共和国の独立を祝う人々。

南スーダン共和国(The Republic of South Sudan)の独立を祝う人々。写真 Luol Deng Foundationより。
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