グローバルキャリア塾 連載コラム

ニッポン人のさとり方 (第20回)

第20回  日本人が忘れがちなもてなす心:豆腐屋さんのコロッケ

松岡 祐紀さん 株式会社ワンズワード
代表取締役、写真家

松岡 祐紀

19歳でスコットランドのエディンバラに留学。NYにてスタジオアシスタントを経験した後、ロンドンに在住。帰国後はフリーランス・フォトグラファーとして活躍。2009年にノーベル平和賞受賞者ムハマド・ユヌス氏の「ソーシャルビジネス」という理念に感銘を受け、株式会社ワンズワードを起業。レッスンの質の高さを売りにしたオンライン英会話スクール「ワンズワードオンライン」を立ち上げる。

2011年よりブエノスアイレスへ移住、さらに第三の故郷としてメキシコシティに居住。2014年3月に中南米・南米の英語学習者のためにスペイン語版ポルトガル語版英語版のオンライン英会話スクールを開設。現在は、ブエノスアイレス、メキシコシティ、日本を行き来して、ソーシャルビジネスの理念の普及と事業拡大を目指している。

個人ブログ: https://keepmyword.hatenablog.com/

株式会社ワンズワード

(2011年11月1日掲載)

子供の頃、豆腐屋の親父さんが来るのが待ち遠しかった。

自分が生まれ育ったのは京都の嵐山というところで、今でこそ観光地としての地位を確保しているが、当時はバブル前で、家の前にはガレージとは名ばかりの砂利地があり、その先には雑草が生え茂っている広大な空き地があった。

豆腐自体は好きではなかった。けど、その豆腐屋の親父さんは車で「とーおーふー」とスピーカーで鳴らしながら、ゆっくりと近所を回っていた。自分を含めた子供たちはその車につかまりながら、一緒に近所を回り、自分たちの母親が豆腐を買い求めてくるとお手伝いをした。そして、豆腐屋の親父さんはそのご褒美に子供たち全員にコロッケをくれた。

ブエノスアイレスに来て、ふとそのときのことを思い出した。

最近、新しく引っ越してきたところは一軒家の2階部分を占有しており、下の階にはファンさんという60歳くらいの大家さんが夫婦で住んでいる。

ファンさんは僕たちがここに住むときに「君たちにはここで快適に気持よく過ごしてもらいたいと思っている。だから、なにか問題があったらいつでも言ってくれ」と言われた。

話し半分で聞いていたが、住んで一週間もしないうちにシャワーを浴びるためのお湯が満足に出ない事態になり、そのことで連絡をした。そのあと、チリにいっているあいだに新しくお湯のタンクを購入してくれ、それで万事オッケーだと思ったが、それでもお湯はシャワーを浴びられるほどには出なかった。

そうこうしているうちに、日本からの友人があと数日でブエノスアイレスに来るという段階になったが、ファンさんは新しく買ったタンクは小さ過ぎるから、今度はもっと大きいのを買って工事をすると言った。

工事をするのは別に構わないが、工事をして全くお湯が出なくなったら悲惨なので、友人が来るまえか帰国してからにしてくれと言った。そしたら、ファンさん早速、その翌日の朝にやたらとでかいタンクを設置しに来て、ほとんど一日がかりで取り付けをして、今度は見事に問題を解決して帰っていった。

「君たちにはここで快適に気持よく過ごしてもらいたい」はどうやら本気のようでそのあともたまにメールで「何か問題ないか?」と訊いてきてくれる。

今度はラファエルさんの話をしようと思う。

彼とはチリから帰国したときにたまたま乗ったレミース(空港からのタクシーは非常に危険なので、まともな人はアルゼンチン版ハイヤーのレミースに乗る)の運転手として知り合ったのだが、その細やかな気の使いようは素晴らしく、いっぺんに彼のファンになってしまった。

ちょうど一週間後、日本からの友人が来たときに彼に再度お願いし、自分の家から空港まで往復してもらった。

そうして、日本からの友人が日本へ帰国するときも彼を呼んで、友人を空港まで送ってもらうことにした。

彼に電話したときに「明日の夕方6時半に来てもらえますか?」と訊いたが、彼は「もちろん」と答えて、そして「出発時刻は何時ですか?」と訊いてきた。「20時半」と答えると、6時半だと余裕がないので、5時半にしようと言ってくれて、結局ラファエルさんの判断が正しかった。

彼だと安心なので空港までは友人を送らなかったが、ラファエルさんは「デルタ航空はそっちだから」とわざわざ道案内までしてくれる徹底ぶりだったらしい。(ちなみに片道170ペソ(約3000円)が相場なのだが、彼はそれよりも低い160ペソと言って友人に請求したらしい。結局、友人は余ったお金を彼に全部渡したらしいが・・・・・)

これが日本だと「会社のため」「サービス精神」などという無機質なイメージに変わるが、ここブエノスアイレスではまだ「気持ち」が残っている。言ってしまえば、日本以外の国はすべて個人本位で動いており、いかに信頼出来る人と知り合えるかがすべてを決定する。

高度に「サービス精神」とやらが発達してしまった日本では、「人に感謝する気持ち」は逆に退化し、何もかもが当たり前になっている気がする

しかし、結局人が仕事を続けられるのは、人に喜ばれるのが嬉しいからだと思う。ファンさんやラファエルさんからは目先の損得よりは、せっかく知り合ったのだから、その人たちには喜んでもらいたいという気持ちが感じられる。

ワンズワードもそのようにありたい。

子供の頃に出会った豆腐屋の親父さんも、きっとコロッケはそのような気持ちで子供たちにあげていたのだろうなと今になって思う。100%純粋な気持ちでコロッケをあげていたとは思わない・・・・そもそも100%純粋の気持ちなんて存在しない。

どうせ同じ仕事をするなら、人に喜んでもらうほうが楽しいし、そのほうが継続できるだろう。「サービス精神」「お客様のため」「顧客満足度」・・・・最近はどうもそれらの言葉が空虚に聞こえて仕方がない。

本当に大事なのは「気持ちであり、もてなす心」だ。きっとそれを忘れて「サービス精神」という言葉が一人歩きをしてしまったから、誰もが息苦しい世の中になってしまった気がする。

だから、せめてソーシャルメディア(ブログ、ツイッター、FACEBOOKなど)を有効に使い、今後も気持ちが伝わるように努力をしていきたい。

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