グローバルキャリア塾 連載コラム

ニッポン人のさとり方 (第30回)

第30回  夢を語ることと、日々に感謝することと、起業と経営について

松岡 祐紀さん 株式会社ワンズワード
代表取締役、写真家

松岡 祐紀

19歳でスコットランドのエディンバラに留学。NYにてスタジオアシスタントを経験した後、ロンドンに在住。帰国後はフリーランス・フォトグラファーとして活躍。2009年にノーベル平和賞受賞者ムハマド・ユヌス氏の「ソーシャルビジネス」という理念に感銘を受け、株式会社ワンズワードを起業。レッスンの質の高さを売りにしたオンライン英会話スクール「ワンズワードオンライン」を立ち上げる。

2011年よりブエノスアイレスへ移住、さらに第三の故郷としてメキシコシティに居住。2014年3月に中南米・南米の英語学習者のためにスペイン語版ポルトガル語版英語版のオンライン英会話スクールを開設。現在は、ブエノスアイレス、メキシコシティ、日本を行き来して、ソーシャルビジネスの理念の普及と事業拡大を目指している。

個人ブログ: https://keepmyword.hatenablog.com/

株式会社ワンズワード

(2012年9月1日掲載)

よくアホな社長が「社員も経営者と同じような視野や考えを持って、会社に貢献して欲しい」とのたまっているが、そもそもそんなことが出来たら社員なんてやってないで、とっとと起業している。

そんな重い責任を負わずに、一日8時間ほど仕事して、余暇は好きなことをしたいというのが一般的な考え方で全く間違っていない。

で、最近やたらと「どんな仕事をしているの?」と訊かれるので、「オンライン英会話スクールをやってんだよね」的なことを言うと、みんな「いいねえ、場所を選ばないから好きなところに行けたりして」という話の流れになる。

そのとおりだし、別に向こうも軽い気持ちで訊いているのだから、こちらもそれに乗って「だから、好きなんだよね、今度ヨーロッパにでも行こうかと思っている」などと向こうの夢を補強してあげたりする。

でも、実情はこちらも必死にこの競争激しいオンライン英会話スクール業界で戦っており、いつ潰れるかもしれないぎりぎりの戦いだったりするわけだ。でも、そんなことは説明しないし、わざわざブログでも書かない。

いわば白鳥のように優雅な生活をしていると見せかけて・・・・・水面下では必死にバタバタ手足を動かしている。

世の中には想像力が全く欠如している人たちがいて、そんな人たちがマイクロ起業とかいって、起業を無責任に薦めたりする例もある。ただ起業した会社の90%は10年後にはすべて倒産しているという事実をきちんと踏まえたほうがいい。

だから常に5年後、10年後のことを考えて、次のステップを考えている。それが経営者にとっては最も大事なことだからだ。(こんなちっぽけなスクールでも、HPを丸パクリしたり、文言をコピペしたりする後発スクールが後を絶たない。うちのスクールに潜入して先生への引き抜き活動を行い、挙句の果てには「きみの名前を冠したスクールを作ったから、ぜひ一緒にやってくれ!」と口説く輩もいる・・・・あなたがた、全部バレてますよ、はい)

ワンズワードの企業コンセプトは「ソーシャル・ビジネス」であり、雇用した先生をとても大事にしている。だから、そのような引き抜き活動にあっても、「私はワンズワードでずっと働きたい」と言ってくれるし、その気持をとても嬉しく思う。

語学学習と同じで、会社の経営も日々の努力が大切だ。だてに採用の段階から先生たちと関わり、年に一回は必ずフィリピンに行き、彼らと一対一で会話をする努力を常にし、彼らの要望をきちんと訊く姿勢を見せているわけではない。彼らが働きやすい環境を作ることがまず第一に考えているので、ちょっとやっそっとでは、揺るがない屋台骨は出来たと思っている。

ワンズワードのコアバリューは、「お金ではない何か」であり、目に見えない何かを提供することだと思っている。それが分かってもらっている人たちが生徒となってやってきているので、先生たちも「教え甲斐のある生徒」と思って、ヤル気を持って教えてくれている。

でも、きっといくらこんなことを書いたところで分かる人にしか分からず、今後も先生の引き抜きを試みる人たち、うちのHPの見かけだけを真似して、参入障壁が低いからオンライン英会話スクールを始める人たちがどんどん増えていくのだろう。

そうして、10年後にはその90%は潰れているわけだ。

ワンズワードが10年後、存続出来たとして「仕事はなにしている?」と訊かれても、「いやー、オンライン英会話スクールをやっててさ、だから好きなときに好きな場所で仕事できんだよね」と特に何でもない風を装って答えるだろう。(オンライン英会話スクールという業態自体がそのときまで存在しているのか疑問だけど)

そうやって人は本当に大事なことはけっして語らず、自分の胸のうちにそっとしまっておく。そんなことも分からない人たちが、起業や経営を軽く考えているから、世の中の倒産は決して減らず、不幸は増えるばかりだ。

人生は経験するものであって、軽々しく語るべきものではない。

そうして、そんな価値観を共有する人たちと一緒に働いていることを今日も地球の裏側から感謝している。

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