ニッポン人のさとり方 (第32回)
第32回 僕の人生最大のモテ期について:コミュケーションを取るということ
松岡 祐紀さん 株式会社ワンズワード
代表取締役、写真家
松岡 祐紀
19歳でスコットランドのエディンバラに留学。NYにてスタジオアシスタントを経験した後、ロンドンに在住。帰国後はフリーランス・フォトグラファーとして活躍。2009年にノーベル平和賞受賞者ムハマド・ユヌス氏の「ソーシャルビジネス」という理念に感銘を受け、株式会社ワンズワードを起業。レッスンの質の高さを売りにしたオンライン英会話スクール「ワンズワードオンライン」を立ち上げる。
2011年よりブエノスアイレスへ移住、さらに第三の故郷としてメキシコシティに居住。2014年3月に中南米・南米の英語学習者のためにスペイン語版、ポルトガル語版、英語版のオンライン英会話スクールを開設。現在は、ブエノスアイレス、メキシコシティ、日本を行き来して、ソーシャルビジネスの理念の普及と事業拡大を目指している。
(2012年11月1日掲載)
人間、褒められると誰でも嬉しい。
だが、残念なことに日本社会では、「実るほど頭を垂れる稲穂かな」という言葉に表れているように、謙虚さをよしとする文化があるので、それほど褒められる機会は多くない。
幼少時を除いて、自分もそれほど褒められた記憶がない・・・・・ここブエノスアイレスに来るまでは。
今、たぶん「人生で最大の褒められ期、分かりやすくいうと、モテ期」といっても過言ではない。僕がちょっとでもスペイン語を話すと、すぐに「すごいね、スペイン語ぺらぺらだね」「ええ!いつからブエノスアイレスに住んでいるの?たった一年ぐらいですごい話せるよね!」などと感嘆符付きで賞賛される。
このメカニズムについて、あまり深く考えて来なかったのだが、先日ここ半年ほど会ってなかったアルゼンチン人と再会して、その謎が解けた。
スペイン語を勉強して一年が経った頃は、たしかに会話は出来るが、頭の中をものすごいスピードで回転させないと言葉が出て来なかった。ただ、場数を踏む機会をたくさん作っていたので、最初の挨拶や自己紹介などはさらっと言える程度の会話力もあったし、時々気の利いたこともなんとか言える程度の会話力はあった。
だが、この半年で今まで習ったことが腑に落ちてきて、たいていのことは話せるようになり、アルゼンチン人やコロンビア人とのコミュケーションにはそれほど苦労しなくなった。少なくても相手にそれほど負担をかけずに会話が出来るようなってきたので、スペイン語で友人を作れるようになってきている。
先日、久しぶりに会ったその友人は特に僕のスペイン語の上達ぶりに驚いた様子もなく、「全然前からペラペラ話せたじゃん」と言われて、スペイン語に関しての話題は終了した。きっとガチで話したら、半年前とは雲泥の差なのだが、相手が「この人とはコミュケーションが取れる」と思ったら、その印象はずっと変わらない。
たいした語学力がなくても「この人とはコミュケーションが取れる」と思ってもらえたら、そこからは相手と友人になれたり、親友になったり恋人同士になったりするわけだ。コミュケーションは言葉でするものではなく、あくまでいかに心と心を通じ合わせるかなので、ベーシックな文法や語彙でもそれは可能だ。
僕は人の話を分かった風に聞くのがうまい。半年前なんて、その友人が言っていることの半分以下しか分からなかったが、なんとなく「ここは眉間にシワを寄せて聞くところ」「ここは、ひとつちょっと微笑みでも浮かべながら聞いておくべきところだろう」などと推察しながら聞いていた。
外国人とコミュケーションを取る、ひいては人とコミュケーションを取るということは、何も相手が話していることを100%理解する必要はないし、すべての単語の意味を理解している必要もなかったりするわけだ。(とくに相手の言っていることの半分以下の語彙力しかない場合、コミュケーションを円滑にするために極力、いちいち分からない単語の意味を訊くことは避けたい)
端的に言うと、相手に「あなたが言っていることは聞いていますよ、ちゃんと分かっていますよ」という信号をいかに発するかがより重要だ。信号の出し方が重要で、相手が言っている内容を100%理解することは二の次なのだ。(もちろん、レッスン中は分からない単語はすべて訊くことが望ましい。お金を払っている相手とのコミュケーションの取り方はおのずと変わってくる)
そして、このブログの読者だけに、僕がなぜ「人生最大のモテ期」に突入しているかお教えしよう。
それは・・・・・ブエノスアイレスに住んでいるほかの外国人のスペイン語が下手すぎるから。もう、これに尽きる。
ブエノスアイレスの人たちは前提として、「外国人はスペイン語が話せない」という思い込みがあるので、少しでも話せたら「すげえ!スペイン語話せるじゃん」となり、そして会話が成立する語学力を身に着けると「ええ!マジ!スペイン語ペラペラじゃん!」となる。
人生のあらゆることに言えることだが、人の評価とは相対評価であり、絶対評価なんて存在しない。英語でもスペイン語でも、あらゆる能力の評価も結局は自分が所属している集団によって評価される。
ここブエノスアイレスでは外国人が英語を話せることは当たり前であり、話せないとむしろ「?」が彼らの顔に浮かぶ。日本ではまだ英語は希少なスキルだが、それもそのうち変わっていくだろう。
われわれが目指すべきは、「完璧に外国語を操る」ことではなく、「外国人ときちんと外国語でコミュケーションを成立させる」ことであり、それを履き違えてるから、日本人の多くは自分の英語力にいつまで経っても自信を持てないのだろう。
そして、それを身に着けるためには、多くの人と会い、彼らと話し、分かり合うことが必要だ。完璧な英語を話すまで彼らと分かり合えないと思っているのはただの幻想で、いつだってどこだって人と人は分かり合える。
足りないのはちょっとした勇気だったり、きっかけだけだ。
べつに知り合う人全員と分かり合う必要はない。自分と気が合う人たちと仲良くしていけばいい。ということでブエノスアイレスで若干調子をこきながら、これからもスペイン語を勉強していこうと思っています。
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