ニッポン人のさとり方 (第37回)
第37回 アルゼンチンで出家する:楽しい人生の送り
松岡 祐紀さん 株式会社ワンズワード
代表取締役、写真家
松岡 祐紀
19歳でスコットランドのエディンバラに留学。NYにてスタジオアシスタントを経験した後、ロンドンに在住。帰国後はフリーランス・フォトグラファーとして活躍。2009年にノーベル平和賞受賞者ムハマド・ユヌス氏の「ソーシャルビジネス」という理念に感銘を受け、株式会社ワンズワードを起業。レッスンの質の高さを売りにしたオンライン英会話スクール「ワンズワードオンライン」を立ち上げる。
2011年よりブエノスアイレスへ移住、さらに第三の故郷としてメキシコシティに居住。2014年3月に中南米・南米の英語学習者のためにスペイン語版、ポルトガル語版、英語版のオンライン英会話スクールを開設。現在は、ブエノスアイレス、メキシコシティ、日本を行き来して、ソーシャルビジネスの理念の普及と事業拡大を目指している。
(2013年4月1日掲載)
驚くべきことに、アルゼンチンに住み始めてからもうすぐ2年が経とうとしている。
ほんの軽い気持ちで来てしまったこの国に、まさかこんなにどっぷりと浸かるとは思ってもみなかった。
最初の1年はスペイン語の勉強にどっぷりと浸かったが、日本に一時帰国しアルゼンチンに戻ってきてからは、こちらの友人も出来、すっかりと現地の生活にも慣れた。
ただそれでも、日々新しい発見があるし、政情不安定かつ経済低迷しているこの国では、自分のアンテナをしっかりと立てておかないと、日常生活すらままならない。(マジ、大げさな話しではなく、大変です・・・生活するだけで時間が過ぎたりするわけで)
それでも、やはりここでの生活は気に入っている。
いまだによく「なぜアルゼンチンに来たのか?」と訊かれるので、最近は冗談めかして「忍耐力を養いたいから」と答えているが、それもあながち嘘ではないくらい、ハプニングが満載な国だ。
スコットランドの首都エディンバラに2年、それにロンドンに2年近くいたが、このアルゼンチンという国は、日本人にとってみれば、ラスボスといってもいいくらい住むにはハードルが高い国だと思う。(石泥棒とかがいるアフリカ諸国は除外しています・・・・)
先週末、アルゼンチン人の友人に誘われてミロンガに行き、夜中の三時くらいにふらふらと街を歩いたが、いたるところから嬌声が聞こえ、人々の楽しそうな雰囲気が伝わってきた。ついでにいうと、2012年に入ってからのアルゼンチンは経済成長が止まり、政府はあらゆる規制を強いて、今年のインフレ率は安倍ちゃんも真っ青の30%になるのではと言われている。
それでも人々は歌い、踊り、生活を楽しんでいる。
「明日は明日の風が吹く」という気楽なラテン気質がそのような雰囲気を生成しているのかは知らないが、客観的に見たアルゼンチンという国と、この国の人たちの生活にはかなり開きがある。
日本もマスコミに踊られて円安歓迎ムードが充満しているが、たぶんこの先待っているのは、ひどい混乱だと思う。(多くの企業がすでに自社工場を海外移転をしているのに、経済に円安が好影響をもたらすとは思えない)
だが、それでも人生は続く。
この国の人たちを見ていたら、「人間とはいかにたくましい生き物か」ということを痛感させられる。もちろん、なかには日々の生活に困っている人たちもいるだろうが、それでもあの手この手で生活はしている。
これから世界が待ち受けているのは、先進諸国のあいだでの過酷な経済戦争とそれに伴う全世界規模の就職戦線かもしれない。それでも、この国の人たちは10年、20年経っても、ずっと歌を歌い、タンゴを踊り、政府には文句を言いながら、なんだかかんだいって楽しく生活をしてそうだ。
「人生の道を外れる」というと、とてもネガティブな響きがあるが、この国にいると、そもそも人生には道などないのではと思えてくる。人々の前には広大な空き地が広がっていて、ただどの道を通るかが問題なだけだ。そこに正解などない。
チベットの高僧が「人生の一番の敵は、期待です。人生に期待するから、人は失望するのです」と言っていたが、この国に住むともう何も期待しなくなる。一回頼んだくらいでは誰も何もやってくれないし、何回頼んでもダメな場合はある。そう、期待しないのが一番なのだ。そして、幸運にも何かが成就されたら、それはとてもハッピーなことなのだ。
アルゼンチンという国に住めば、坐禅なんて組んで雑念を取り払う必要もなく、下手な雑念とはおさらば出来ることだけは確かだ。大げさな話し、アルゼンチンに住むということは、どちらかというと出家することに近いのかもしれない・・・・・そう考えるとなんだか合点がいってしまう。
人生に荒波に逆らうことなく、自分自身の道を切り開き、日々の生活に感謝する・・・・タンゴを踊りながら悟りをひらけるなら、安いものだ。
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