ニッポン人のさとり方 (第35回)
第35回 良い子は真似しないように: サッカー日本代表の内田選手による外国人コミュニケーション術
松岡 祐紀さん 株式会社ワンズワード
代表取締役、写真家
松岡 祐紀
19歳でスコットランドのエディンバラに留学。NYにてスタジオアシスタントを経験した後、ロンドンに在住。帰国後はフリーランス・フォトグラファーとして活躍。2009年にノーベル平和賞受賞者ムハマド・ユヌス氏の「ソーシャルビジネス」という理念に感銘を受け、株式会社ワンズワードを起業。レッスンの質の高さを売りにしたオンライン英会話スクール「ワンズワードオンライン」を立ち上げる。
2011年よりブエノスアイレスへ移住、さらに第三の故郷としてメキシコシティに居住。2014年3月に中南米・南米の英語学習者のためにスペイン語版、ポルトガル語版、英語版のオンライン英会話スクールを開設。現在は、ブエノスアイレス、メキシコシティ、日本を行き来して、ソーシャルビジネスの理念の普及と事業拡大を目指している。
(2013年2月1日掲載)
内田篤人はイケメンだ。 まずはそのことを踏まえて、この記事を読む必要がある。 (なにしろ2013年人気カレンダーは、1位AKB48、2位ももクロ、3位ウッチーなのだから。日本男子1位のイケメン度を誇る)
知られざる内田篤人のドイツでの流儀・現在の地位を築いた確固たるスタイルとは
このなかで、語られる多くのことは彼がいかに人たらしであるかを語っていると同時に、一般庶民の我々にも外国人といかにコミュニケーションを取るべきかという教訓を与えてくれる。
下記は本文からの抜粋だ:
「内田は言葉が通じない現状を逆手に取ることがある。彼のポリシーは、けがをしようとも、体調を崩そうとも、自らそれを理由に練習を休むことはしないということだ」
「試合には「リベリと心中」するくらいの気概で臨んだという。リベリの自由を奪う一方でカバーリングが思うようにいかないことがあったが、試合後に待っていたのは監督とチームメートからの絶賛の嵐だった」
「練習の合間には監督が歩いている背後から近づいて、監督の股の間にボールを通してみせる」
「雨の日も雪の日も内田はチームの後片付けの手伝いをやめることはない」
これを彼のイケメン度を考慮して、翻訳すると下記になる。
「怪我をしていても痛みを周囲に隠しつつ必死にプレーするイケメン」
「リベリと心中するイケメン」
「ニヒルな笑いを浮かべながら、監督の股の間にボールを通すイケメン」
「雨や雪に打たれながらも、試合の疲れをおくびも出さずに、健気にチームの荷物を運ぶイケメン」
こんなイケメン、誰が嫌いになるのというのか!
まずはこのことを前提に踏まえつつ、「いかにうまく外国人とコミュニケーションを取るか」ということをきちんと考察したい。このコラムの冒頭にも語られているように彼が周囲とのコミュニケーションに成功した最大の要因は下記による。
「内田篤人が海外のクラブで成功をおさめることができたのは、日本とは違う環境であることを当たり前のこととして受け入れたからだろう」
これは本当にごく当たり前のことのように思われるが、海外在住の外国人でもこのことをきちんと自覚していないことが非常に多い。ここブエノスアイレスでもアルゼンチン人やこの国自体に関して、ひたすら文句を言っている人たちが多い。猿でも文句は言える。文句を言うだけで解決できる問題は少ない。
内田選手がこのことを深く認識し、問題解決のために取った行動こそ、彼の成功のエッセンスが凝縮されている。彼は一冊のまっさらのノートを持って、同チームのユース出身ドイツ人選手にチームの決まり事を訊きにいったのだ。
彼がもし監督に同様のことを訊きにいったら、「こいつは同じことを二度言わないと分からないアホなのか」と思われていただろう。しかし、ウッチーはチームのことを深く理解している選手に監督の意図を訊きに行った。
海外生活では、信頼できる現地の友人にその地の事情を訊くのが一番だ。土着した文化に根ざした観点で、出来事を解釈してもらい、それを説明してもらうと、物事の理解がより深まることは多々ある。
「監督が言ったことを理解すること」と「監督が意図していることを理解すること」には大きな隔たりがある。監督が言ったことが分からず監督に再度訊いても、彼は同じような説明方法で同じことを説明するだけだ。だったら、チームのやり方を熟知したチームメイトに監督が本当に意図することを訊いたほうが早い。
これは会社でも当てはまる。上司が言ったことが分からず、上司に再度訊いても要領を得た答えは得られることは少ない。ならば、彼のことをよく知っている人物に訊きに行き、彼が本当にいわんとしていることを率直に尋ねたほうが話が早い。
そして、これはあらゆるコミュニケーションに当てはまる。相手が言っていること自体を理解するよりも、相手がいわんとしていることをきちんと理解することが最も重要なのだ。例えば、英語でコミュニケーションを取る場合でも、一字一句をいちいち頭のなかで翻訳してすべての言葉を理解する必要はない。彼、彼女が言わんとしていることを理解し、それに対して相手にきちんと反応することがコミュニケーションを取るということなのだ。
極論すると言葉が分からなくても、外国人とのコミュニケーションは可能だ。特に彼のようにサッカーのプロとして海外に行った場合、現地の人と仲良くなってコミュニケーションを取ることが目的ではない。ピッチで活躍し、自分とチームの評価を高め、試合に勝つことが目的だ。
だが、その目的のためには最低限のコミュニケーションをこなす必要がある、そのための方法論が彼のなかにあり、またこれは穿った見方かもしれないが、ウッチーは「人から好かれること」に絶大の自信があったのではないか。
「外国人である」という事実は結構な場面で有利に働くことがある。ちょっとおかしなことをしても、「あの人、外人だからしょうがいないよ」で済まされるからだ。それに付け加えてウッチーの場合は、「あの人(あのイケメン)、ドイツ語も英語も話せなからしょうがないよ」という免罪符も与えられる。多少のミスコミュニケーションは許されるシチュエーションだ。それを逆手に取り、こっちもこっちで最大限の努力はしていますよ、というのが彼のコミュニケーション術の真髄と言える。
しかし、これは当然ながら良い子は真似できない。日本代表でもレギュラーかつ王子的な容姿、それに機知と機転に利いた特別な人間に与えられたコミュニケーション方法だ。
我々は現状を理解できる程度の最低限の語学力を身に付け、「海外と日本の違い」を常に自覚し、そのことで不平不満があっても、なるべく面白おかしく話して笑いに変える必要がある。
そして、信頼できる現地の友人を作り、彼や彼女たちの解釈で物事を判断する術を持つ。そうすれば、おのずとその国のことを深く理解出来るようになり、周囲とうまくコミュニケーションを取ることが出来るだろう。サッカーと言う武器を持たない我々は最低限の語学力を身に付け、出来ればスポーツや趣味などをコミュニケーションを取る道具として活用して、お互いに理解を深めていく必要があるのだと思う。
(ウッチー以外のサッカー選手が言葉の問題により海外でいかに苦労しているかよく分かる本です。海外コミュニケーション術という観点からもとても有用な本です)
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